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五霊脂(ごれいし)


 中国西安の三十キロ西にある咸陽(かんよう)という地方都市の病院で研修を受けているときに、こんな経験をしました。ある月経痛を訴える患者さんが来ました。日本ではたいていお医者さんからのいくつかの質問に答えると検査に回されます。中国では違います。患者さんが主役です。自分の症状を言い尽くすまでは椅子から離れません。

 月経になると下腹のこの部分が錐で突かれるように痛い。経血は黒くて粘り気があって、こんな大きな塊が出る。月経の前には、お乳が腫ってむしゃくしゃして、わき腹が腫る様に痛い。月経の時に目の下にクマができて、くちびるの色が黒っぽいのが気になる。など、診察室の外まで聞こえる大きな声で、身振りを交えて説明します。

 先生が書く処方せんを覗き見ると、「五霊脂」という見慣れない薬の名前が書いてあります。通訳の先生にたずねると、答えにくそうに「フンです。こうもりの糞です。」といいました。本場の中国の漢方薬の中には、人間の髪の毛を焼いた灰とか子どもの尿を乾かした結晶など信じられないものがあります。もちろん、人間の胎盤などは現代医学の薬の原材料になっていると聞いています。自分は飲みたくないと思うのと同時に、一体だれが思いついてどんな風にして確信につながったのか想像が膨らみます。

 そうは言っても、日本では、相当マニアックな漢方薬屋さんでないと、そういう薬は置いていません。

 日本でそれに代えて、シソ科の丹参(たんじん)ショウガ科の莪朮(がじゅつ)シソ科の益母草(やくもそう)を使います。処方として、日本では桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)がよく使われます。私は、■帰調血飲(きゅうきちょうけついん)大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)の方がずっと効果的と思っています。

五霊脂(ごれいし)ムササビ科の動物などの糞便。ストレスを伴った血行不良の痛みや出血に勧められる。昔から朝鮮人参と併せて飲んではいけないと伝えられている。

■→草冠+弓



黄耆(おうぎ)


 Fさんは、四二歳の女性です。一見して顔のむくみを感じます。色は白いのですが、引き締まり方が弱く、アレルギー性鼻炎とかゼンソクとかを感じさせる印象です。漢方相談の内容は、潰瘍性大腸炎でした。

 お腹の痛みと下痢、血液などの症状が気になって、消化器科の専門のお医者さんにかかって、ペンタサ(メサラジン)プレドニン(副腎皮質ホルモン)などを、状態によって使い分けていました。二年しても治らないので、漢方を試してみしようとおいでになりました。

 お医者さんから出ている薬を自己判断でやめることなく、きちんと診察を受け続けることを条件に、漢方の併用を始めました。そして、主治医には、漢方でいう「気」が足りない状態なので、「気」を補う漢方薬「脾」の力が足りないため下痢をしているので「脾」を強めて下痢を自分の力で改善するのを手助けする漢方薬、そして、腸の炎症を鎮めて出血を止める薬草の粉を組み合わせて渡しました、という報告書を郵便で送りました。

 下痢のための漢方薬は、啓脾湯(けいひとう)、出血を止める薬草の粉は田七(でんしち)です。「気」を補う漢方薬は「衛益顆粒(えいえきかりゅう)」という名前で、中国では玉屏風散(ぎょくへいふうさん)という名前で呼ばれています。玉(ぎょく)で出来た屏風(びょうぶ)のように、体を外側から攻めてくる邪気から守ってくれるという意味です。

 漢方薬を合わせて飲むようになってから二週間足らずで明らかに症状が改善して、三ヵ月後には主治医から現代医学の薬を休んでみるとの連絡を受けました。半年すると出血も下痢も落ち着いたので、啓脾湯田七を休んでも問題なくなりました。それからもう二年になりますが、本人の希望により黄耆の入った衛益顆粒だけは続けています。

 食事を日本古来のご飯とみそ汁と煮た野菜を食べるようにして、発酵食は自家製のヨーグルトの代わりに納豆にしたのも良かったのかもしれません。

黄耆(おうぎ)マメ科ナイモウオウギなどの根。疲れやすさ・出血しやすさ・手足のしびれ・汗のかきやすさ・皮膚病などの治りにくさ・むくみなどに効果がある。



神麹(しんきく)


 私が漢方相談を受ける仕事をしていて、心療内科的な勉強もしなくてはならないと思うことがあります。現役の精神科のお医者さんが三年にわたって漢方の研修においでになって、「神経科や精神科の領域の患者さんの症状が、漢方で経過の安定するケースが確かにあるんですね。これから患者さんを紹介します」と言われたからです。

 現代医学では精神安定剤といわれているデパス(エチゾラム)やSSRIといわれるルボックス(フルボキサミン)などが広く使われていますが、漢方では全く違った座標軸で患者さんの不安や緊張の原因を考え、治療法を唱えています。

 いろいろ気を回しすぎて消化器の機能が低下して、気力が出なかったり不眠になるケース帰脾湯(きひとう)が第一選択です。舌の色が淡く引き締まり方が足りず表面の苔は適度に湿っています。自分のやり方にこだわりが強くてイライラする場合は、漢方でいう肝の気が滞っている場合があります。抑肝散(よくかんさん)が第一選択です。舌の赤みが強く表面の苔がはがれていることが多いです。

 問題なのが、症状が長引く原因に、血の巡りや水の巡りが悪くなっていることがあります。気の巡りが悪いことと悪循環になっています。血の巡りが悪い場合は、昔はヒルなどで肩から古血(ふるち)を抜くとか特別な下剤で下痢させて抜くなどの方法をとっていたようです。水の巡りが悪い場合は、精神疲労から消化機能が低下して、舌にビッシリと白や黄色の苔がつくのです。それに気がついてこすって来る人もいます。

 もちろん生活環境で負担を軽減するのも必要ですが、動物性の脂と冷たい飲み物を減らして、根菜や海草を温めて多めに食べる方が良いです。食べ放題のような不摂生をやめて少食でたくさん歩きます。神麹は、よどんだ水分を取り除く働きがあります。日本では晶三仙という名前で販売されているものに含まれています。舌の苔が気になる人には、元から治す事をお勧めします。

神麹(しんきく)麩(ふすま)にカワラニンジンなどの液汁とアズキなどの粉末を混ぜて発酵させて乾かしたもの。板状のものも粉状のものもある。



板藍根(ばんらんこん)


 先日、厚生労働省は、新型インフルエンザの世界的な流行(パンデミック)に備えて、最低2週間の食べもの・マスク・アセトアミノフェンなどの解熱剤の備蓄を呼びかけました。発熱した場合は、まず、保健所や救急に電話で相談して,専門の「発熱外来」で新型インフルエンザであるかどうかの診断を受けた上で、その指示に従って欲しいと訴えています。

 今年初めにNHKで放送された「パンデミック・フルー」は、パニックを起こさないように製作されましたが、視聴者の多くが強い不安を感じたとの意見を聞きました。ところが、私たちはその不安から学び対策の行動をとる前に、手に入りにくくなったバナナを求めて八百屋さんに押しかけてしまっています。

 ところで、日本の学校では、これまでのインフルエンザで毎年のように学級閉鎖が行なわれています。中国の友人ひとりが、学級閉鎖は中国に無いと言うので、知り合いの多くの中国人にたずねると同じ返事が返ってきました。中国では、インフルエンザがはやる時期になると「板藍根」のせんじ薬をかならず飲まされるのが効果を上げているのではないかとの意見でした。

 板藍根は、中国の漢方では「清熱解毒薬」に属して、昔からハヤリヤマイ(インフルエンザ・日本脳炎・おたふくかぜ・しょう紅熱など)による高熱や頭の痛みに欠かせない薬草です。ぜひ、皆さんに一人一か月分の備蓄をお勧めします。

 世界大恐慌前夜のような金融不安、繰り返される通り魔事件、地球温暖化による食物の不足など、私たちの周りには大昔には無かった不安が渦巻いています。家族や仲間と一緒に心穏やかに暮らせる、愛と平和に満ちたスペースを作り上げていく智恵が、今こそ求められています。

板藍根(ばんらんこん)アブラナ科タイセイの根。葉は大青葉(だいせいよう)。地方によってはタデ科アイも利用される。連翹や金銀花と同じく抗ウイルス作用が期待できる。



知母(ちも)


 秋の行楽シーズンになりました。海外旅行もいろいろな発見があって楽しいのですが、原油高のせいか燃油サーチャージが値上がりしていて二の足を踏みます。いきおい、バス旅行の人気が上がっているようですが、男性の場合中年を過ぎると気にかかることがあります

Y町のTさんは、退職して奥さんとバス旅行を楽しみたいと思いましたが オシッコの出始めが遅いことが気になります。ドライブインのトイレで、隣の人が勢い良く音を出しながら、さっとしまって次の人が始めます。後で並んでいる人の目が気になって、そうそうにオシッコを終わらせるといいます。急にオシッコがしたくなって困ったり、夜、何度もトイレに起きるので、一泊旅行には行きにくくなってしまいました。

 近所の泌尿器科の専門医に相談したところ、軽い前立腺肥大なので漢方薬を試したらと紹介されました。

 ところが、Tさんは忙しいのでインターネットで調べて、八味地黄丸(はちみじおうがん)を通信販売で送ってもらって飲んでみました。ところが、気持ちがイライラしてのぼせてしまいました。怖くなったTさんは、改めて相談にやってきました。八味地黄丸は頻尿に良いとされていますが、体質は舌の色が淡く体の芯が冷えやすい人用のお薬です。Tさんは舌が濃い紅色で、大きさが小さく体がほてりやすいので、体質が合わなかったのです。自費になりますが、八味地黄丸から肉桂(にっけい)附子(ぶし)を除いて知母黄柏(おうばく)を加えた瀉火補腎丸(しゃかほじんがん)を勧めると、不快症状が半分以下に軽減しました。

効能効果が合っていても体質が合わないと漢方はうまくいかないケースがみられます。近所の漢方に詳しい専門家に相談してください。

知母(ちも)ユリ科ハナスゲの根茎。特に慢性の喉の渇きによる咳に勧められる。また、焦燥感・寝汗・微熱・ホテリをともなった夢精にも効果がある。



健康とは自然の歓び


 八月の十六日、自然農法の提唱者であり、その自然に根ざした哲学で日本より世界ではるかに知名度の高い、愛媛県の福岡正信さんが九十五歳で亡くなりました。福岡さんは、人間は百種類もの種を粘土団子に混ぜて撒くことだけをすれば、自然が時期や種を選ぶという発想でアジア・アフリカを始め世界の砂漠・荒地の緑化にも貢献し、アジアのノーベル賞といわれる「マグサイサイ賞」も受賞している方です。

 アニメ監督の巨匠、宮崎駿監督も福岡さんの哲学のファンといわれています。ジョンレノンさんやオノヨーコさんも福岡さんの農園を訪れています。私の職場にも、ご高齢にもかかわらず三度もおいでいただき、砂漠緑化・粘土団子のお話しをしていただきました。

 実際、福岡さんの講演を聞いたり本を読んだりすると、人間はどう生きるべきかを考えさせられます。健康について論じても、単に血液や画像の分析をして診断を下だすことにとどまっていません。「医療専門家の使命は、苦楽、生死の相談にのり人間の真に生きる喜びを与えることにある。真の喜びは自然の中にある」と言い切っています。福岡さんの哲学にふれると、いかに自分が浅い知識だけを振り回して偉くなったような思い違いをしているかに、気付かせてくれます。

 人間が、土から離れて草木と触れ合う時間が短くなり、食べ物はスーパーやコンビニにあふれていて金さえ払えば手に入るという便利な環境にいる時間が長くなるにつれて、生きる歓びから離れて悩みや苦しみが増えていってしまうような気がします。

 病原菌を薬でやっつけたり、弱った臓器を付け替えたりするのが西洋的な医学であるなら、東洋的な医療は、病原菌を抑えてきた自分の体力をよみがえさせ、臓器が弱まった原因を取り除き臓器がふたたび活発な働きを始める手伝いをすることでしょう。それには、大自然から与えられる、生きる歓びを感じられる生き方・生活のしかたを患者さんに指導しなければいけないと福岡さんから学びました。

 漢方薬は道具でしかありません。病気を治すのは自然の一部である自分です。まずは、早寝早起きをしてましょう。裸足で土の上にたってみませんか。草木の香りとお日さまの温かさを背中で感じてみませんか。野菜の種を植えてみませんか。そこから自然を学んでいきましょう。



槐角(かいかく)


 先日、近所の男子中学生も呼んで、我が家で性教育をしました。性的な関係を結ぶのは、相手を大切に思うところから始まる。性病の感染や妊娠の可能性を理解する。避妊具の使い方など、実地で教えました。

 けっして、積極的に話したわけではありません。私の世代には、ブルセラや援助交際から、最近はネットを通じて全く見知らない相手と性関係を結ぶ女子高校生が増えているという現実がどうしても理解できません。しかし、その事実から子どもたちを守れるのは、私たち大人しかいないでしょう?と説得されて、かなり高いハードルを越えて話をしました。

 その中で、何億年の昔に地球上に現れた生命が次から次へと生命のバトンを受け渡した結果、一人一人の生命がここにあることを話しました。身近な例で、カゲロウの成虫には消化器官が無い。自己保存より子孫を残す生殖器官を優先している。それほど、生き物にとって性は大切なものである。だから、性衝動を恥ずかしがる必要は無いと話しました。

 ところで、人間は生殖期間を過ぎてもそれぞれのいのちを高めていく能力を持っています。そのために、消化器官が備わっています。ところが、歯や胃が痛ければすぐに何とかしようとしますが、肛門が痛かったり出血したりしても、恥ずかしくて専門のお医者さんに診察を受けるのは先延ばしになりがちです。

 夏の疲れが出てくる今頃は、肛門にトラブルが出やすい時期でもあります。がんの可能性もありますから、早めに診察を受けましょう。

 漢方では、槐角という薬草が肛門の腫れや出血に効果があり、槐角丸という名前で輸入されています。槐角は他に、漢方でいう肝の熱を清めるのでイライラや頭痛・目の充血にも勧められます

槐角(かいかく)マメ科エンジュの成熟果実。辛いものや脂物の食べ過ぎで、腸に熱がある場合の出血に用いられる。冷えて下痢をしている場合には使わない。



白芍(びゃくしゃく)


 テレビのコマーシャルに、ヨガがよく出ています。体をひねるようなポーズで肉体的に刺激を与えて、意識して深い呼吸をくりかえし、座禅のような瞑想的な状態に入るので、日本人の気質に合っているのか、ブームは去る気配がありません。

 似たような健康志向の呼吸や瞑想に、気功があります。以前は「東京から気を送りますから、この口座にお金を振り込んでください」などという信じにくい話も聞きました。そんな仰々しいものでなくても、草っぱらに座ったり木のかたわらに立ったりすると、自分の力で生きているのではなく生かされているんだと気づかされます

 川越の帯津三敬病院の名誉院長、帯津良一先生は、二十五年にも及ぶ気功の経験から「時空」を発表しました。この気功に「小波浪息(しょうはろうそく)」「大振息(だいしんそく)」という、みぞおちやわき腹をゆるめる動作があります。緊張や不安、悩みや苦しみを解き放つには、みぞおちをゆるめることが必要なようです。

 S県のKさんは、ほとんどプロに近いゴルフプレイヤーです。数年前から過敏性腸症候群に悩んでいます。「先生、以前は自分の気分をコントロールできていたのに、最近はどうにもならないのが歯がゆいんです。」ゴルフ場に行く間に何度もコンビニのトイレを借りたり、事前にゴルフ場の中のトイレの位置を確認します。

 舌の先が紅く、白い苔がうっすらと着いていたので、漢方でいう肝の気を緩める白芍を含んだ加味逍遥散をベースにして、下痢の時には啓脾湯を重ねるように指示して、気功を薦めました。気功をするときには、治るように念じるのでは余計意識するので、雑念が入らないように「いま、ここ」を意識するようにしてもらいました。すると、一ヶ月しないうちに、症状が始めの三分の一になりました。

 私は今、気功「時空」を、一週間に六会場で稽古しています。漢方薬をたくさん使わなくても、いろいろな病気を癒してくれます。ぜひ、参加してほしいと思います。

白芍(びゃくしゃく)ボタン科シャクヤクの根のコルク層を除去したもの。質の良い血を増やし、肝を柔らかくしてさまざまな痛みを取り除く。



木槿皮(もくきんぴ)


 今年のお盆は、同世代の友人三人の新盆で忙しかったです。きっとそうやって、この人生が永遠に続くものではないことを、肌身で感じる機会を経て心の準備をさせてくれるのでしょう。朝の風や夕方の雲の色をいとおしく感じられるようになりました。映画「わらびのこう」のDVDが出た話を聞きました。怪談ばなしより、涼しくなるかもしれません。

 映画「わらびのこう」は、作家の村田喜代子さんの同名の小説を、映画監督の恩地日出夫さんの手によって作られた作品です。

 赤城山の中腹のキリスト教の教会で、地域のお年寄りと暮らしている私より5歳下のNさんのことを思い出しました。年を取ればあちこち悪いところが出てきます。必要なら現代医学の進んだ検査は受けます。しかし、治療は病院に任せ切りにせずに地域に伝承してきた民間療法を試みていたので、ときどきアドバイスを聞きに来ていました。

 彼からも教えられることも多く「先生、氷水に手を漬けたら冷たくて手を引っ込めるでしょう?今の人たちは口が気持ち良いからといって、胃袋に氷水を流し込みますよね。そんなことを繰り返していたら胃袋は、壊れちゃいますよね」彼の名言のひとつです。

 ある日、「先生は、爪の水虫は付け薬では治らないといっていましたが、9ヶ月このドキンピチンキを爪の根元につけていたら、おばあちゃんの爪水虫が治りましたよ」と、言って来ました。彼は、多くの介護福祉施設の職員が水虫に感染して困っていること、皮膚科に行くと内服の薬を出されるが肝臓に副作用が出やすいので注意が必要なこと、感染しない体質を作ることが大切だということ、などを力説していました。二人の結論は、治ればそれを命のパワーにすれば良いし、治らなくても灰になるまでの付き合いだからもっと他に一日を大切に生きる喜びを見つければいいんだよね、ということになりました。

 木槿皮(もくきんぴ)アオイ科ムクゲの枝皮・根皮。土槿皮酊(ドキンピチンキ)の原材料。目に入れない・爛れたら休むなどの注意が必要。



石決明(けきけつめい)


 几帳面で生真面目なOさんは、六十七歳の男性です。会社の役員をしていて、忙しい間をぬって一日三句の俳句を作ることを四年以上続けているそうです。早朝に散歩もしているわりには肥満気味ですが、かろうじてコレステロールも中性脂肪も正常値です。血圧がやや高いので漢方薬を希望しておいでになりました。

 漢方に理解のある医師と相談して、「気」の巡りをよくする柴胡(さいこ)白芍薬(しろしゃくやく)釣藤鈎(ちょうとうこう)「肝腎」を補う杜仲(とちゅう)・生地黄(しょうじおう)・枸杞子(くこし)「気」の高ぶりを鎮める夏枯草(かごそう)牡蛎(ぼれい)の他に、石決明を加えることにしました。

 石決明は、イライラなどによって、頭がふらついたり張ったり重い感じになる場合、のぼせてほてる感じになったりした場合などに勧められる漢方の薬剤です。

 牡蛎カキの貝殻で、石決明アワビの貝殻です。昔は貝殻がお金の代わりになっていたとも聞きます。中国の沿岸部の広州や上海ならば、貝殻もすぐに手に入りますが、海から千キロ以上も離れた内陸の西安などには、どのようにして運ばれたのでしょう?

 Oさんは、三ヶ月間漢方薬を飲むうちに、血圧もコントロールできて落ち着いてきました。今は、漢方の考え方で、「水のよどみ」「血のとどこおり」がまだあるので、冷たい水を飲み過ぎないように、特にフライなどの揚げ物を食べるときには暖かいお茶を飲むようにし、果物やアイスクリームなどで冷やさないように気を付けてもらいながら、「水のよどみ」「血のとどこおり」を取り除く漢方薬を飲んでもらっています。

 続けて飲んでいるうちに、少し近寄りがたい印象だったOさんの几帳面さが和らいできたような気がしました。硬い漢方薬で、硬い気持ちが軟らかくなったようで、不思議な印象でした。

石決明(せきけつめい)ミミガイ科アワビ類などの貝殻。別名、九孔決明。決明子はマメ科エビスグサの種だが、草決明として区別する。中国では目の充血や緑内障にも使われる。



烏賊骨(うぞっこつ)


 「先生、胃が痛くて困っています」「どうしたの?」「上司に、びっくりするほど仕事のできない人がいて頭にくるんです」「仕事ができないといけないのかな?」「そうじゃなくて、他の人に自分の仕事を回して、自分の手柄にして上に報告するから、上は実態がわからないんですよ。たとえば、上から今の三人体制から一人減らすように言われているんだけど、お前ならだれをけずる?って、ニヤニヤしながら聞いてくるんです。」「そういう時はどんな気持ち?」「関わりたくないけど、逃げられなくて辛いですよ。それに、席にいない人の悪口ばかり聞かされて、・・この前は、いつだってお前なんかラインに飛ばすことだってできるんだからな・・って言われました」「どんな方法で解決できるか、一緒に考えてみようか?」

 若い人たちの労働環境の低下は、ますます進行しているようです。

 中国医学では、ストレスは五臓六腑の肝で受け止めると考えています。もともと、肝は自由闊達な気を好む臓器ですが、パワーハラスメントなどではけ口を見つけにくい怒りに気持ちが閉じられると、肝だけで納まりきれずに隣の脾の機能を乱して、腹痛・下痢・吐き気などを生じるようになります。

 「内科で出されたガスターっていう薬を一生飲む気がしないので、なにか漢方薬はないですか?」わたしは、中国漢方で開気丸という処方のほかに、さらに効果を高めるために烏賊骨を勧めました。昔の人はどうして気が付いたのか不思議です。主成分はカルシウムです。現代人ならカルシウムが胃酸を中和する他、鎮静作用なども期待できると容易に想像がつきます。中国では、吐血や血便にも使われます。

 彼の置かれている状況は相変わらず変化はありませんが、胃の痛みは軽減して、開き直るしかないとあきらめに近い気持ちになり始めています。

烏賊骨(うぞっこつ)コウイカ科コウイカなどの甲骨。止血の効果があり、不正性器出血や月経過多から吐血・喀血や血便・痔出血などに使われる。



遠志(おんじ)


 遠志という言葉は、私にとって懐かしい響きがあります。不安と希望を持ちながら、大学に通えるようになって、漢方研究部の扉を叩きました。そこは、それまで嗅いだことのないさまざまな薬草の臭いで満たされていました。私の記憶では部誌の名前が「遠志」だったと思います。若いということは、ある部分身の程を知らないという場面もあります。私は、せっかく名前をつけるのなら「長白山」とか「トリカブト」とか、もっとインパクトのある名前を付けたらいいのにと思ったのを覚えています。

 長白山は、日本人の大好きな朝鮮人参のふるさとですし、トリカブトは赤城山にも自生している美しい毒草であり有用な薬草です。それに引き換え、遠志は、薬草の組み合わせではいつも二番目三番目に控えている薬草です。心配事が重なって気持ちが疲れたときに、動悸や不眠になることがあります。そういうときに他の薬草の効果を高めて気持ちを落ち着かせてくれる働きがあります。

 中国・瀋陽からお嫁さんに来たKさんは、不眠とめまいの相談でやってきました。過ぎてしまったことを悔やんだり、出会う人全員から批判されないようにいつもハラハラビクビクしています。頭も気持ちも休まる暇がありません。舌を見ると赤みが足りず引き締まり方も弱い印象でした。私は、薬を飲んでも今の気持ちのクセが治らなければ薬は効かないと説明しました。風呂に栓をせずにお湯を入れているようなものだからです。

 料理をするときは料理に集中する。不安をあおるようなテレビ番組は見ない。寝るときは楽しかった事を思い出す。薬は帰脾湯

 目に力のなかったKさんの全身から気力を感じられるようになったのは、3週間後です。

 川越の帯津三敬病院の名誉院長の帯津良一先生は、あなたは宇宙ができてから百五十億年の旅をして生まれてきた。これから、死の壁を突き破って百五十億年かけて虚空にもどる旅に出る、とおっしゃっています。遠志の意味がわかりかけてきました。

遠志(おんじ)ヒメハギ科イトヒメハギの根・根の皮。気力を高めるほか、舌に苔がついて頭がぼんやりして考えがまとまらないときにも勧められる。



続断(ぞくだん)


 断ち切られてしまったものを、ふたたびつなげると書きます。

 むかし、金儲けのために薬を手に入れようとした薬屋の誘いに対して、薬は困った病人を助けるためにあるのだと言って薬屋のいうことを聞かなかった医者がいました。業を煮やした薬屋は、街の乱暴者を使って医者の脚を折らせました。しかし、医者は続断を使って回復して、そっと街から離れたという話しがあります。

 私が中学生のときに観た映画で、衝撃的だったのは「イージーライダー」です。疎外感と破滅的な怒りの表現に驚きました。その後、バイクに乗るようになって、時にはダンプに膝蹴りを試みるような事故も経験しました。そういうときに煎じて飲むのが続断です。急性の痛みには煮詰めて軟膏のようにして塗ります。五臓六腑の肝腎を補うので、慢性の脚腰のだるさや無力感で困っている人ばかりか流産グセに悩んでいる人には煎じて飲んでもらいます。だれでも、歳を重ねればあちこちが用をなさなくなります。お茶代わりに飲んでも良いでしょう。

最近の若者たちは、暇さえあれば、コンピューターのゲームをしています。殴り合いや殺し合いをバーチャルの世界で繰り返しています。お米を作る苦労も食べられるように調理する面倒さ、そしてその先にある大きな喜びを経験せずに、生きていくことになります。私もコンピューターゲームにのめりこんだ時期もありましたが、うまく卒業しました、そして、食べ物をコンビニでなく畑で育てて手に入れる苦労と喜びは、なににも換えがたいと感じています。

私たち人間は、自然の森の木や草を敬いその命の輪廻に従う生き方から、断ち切られてしまいました。コンピューターに盗まれてしまったこころと、自然との関係をふたたびつなげる妙薬はどこにあるのでしょうか?

続断(ぞくだん)マツムシソウ科の植物の根。四川省産が有名で「川断」とも書かれる。日本ではキク科ノアザミ属植物を和続断という。



益智仁(やくちにん)


 バブル最盛期の頃、テレビ会社が発行している主婦向けの月刊誌の取材を受けました。表紙から10ページに渡って、冷え症便秘太りすぎに勧められる薬膳のカラー写真が載りました。見るからにおいしそうで、身近に手に入る食材を使って、作り方も詳しく掲載されました。食養の専門家からは問い合わせがありましたが、一般の主婦からは、ほとんど反響がありませんでした。

 次の号の編集後記に、「夜尿粥」の話しが載りました。前回こんな特集を組んだけれども、中国には子どもの夜尿を治す時に、五臓六腑の腎を温めることによって、夜尿が治るという理論があるといった、簡単な紹介でした。

 ところが、翌日から電話は鳴りっぱなしになってしまいました。夜尿粥に入れる薬草を求める電話は、九州長崎の聞いたこと無いような島から、四国の山奥から北海道からも、もちろん、東京や大阪などの大都市からもひっきりなしでした。

 当時、二日徹夜をして郵送した記憶があります。また、アンケートをとると、半分は長男というデータも残しました。

 効果の方は今ひとつだったと評価しています。内容の■実(けんじつ)は、味は無いのですが、こちらの益智仁やや辛い香辛料のような日本人にはなじみの薄い味だったので、一週間も続かないケースが多かったからです。

 益智仁は、冷たいもののとりすぎで胃腸が冷えたときの下痢や食欲不振に使うほか、冷え症で、昼や夜の頻尿や特に男性がおしっこをしたあとにタラタラとキレが悪い場合によく使われています。

益智仁(やくちにん)ショウガ科ハナミョウガ属植物の成熟果実。智恵を益す種という名前。漢方でいう腎は、記憶力にも通じるので、今後の研究に期待したい。

■→草冠+欠



蘇子(そし)


 漢方薬の効能効果は、なかなか理解してもらうのは難しいところがあります。現代医学と全くものさしが違います。たとえば、永六輔さんが提唱している鯨尺(くじらじゃく)とゴルフでいうフィートくらい違うと言えるでしょう。

 中国漢方では、五行論(ごぎょうろん)という自然哲学で病気のメカニズムを考えます。五行論とは、「木・火・土・金・水」五つの要素が互いにバランスを取りながら一体であるという考え方です。「木が燃えると火になって、火の後には灰(土)ができて、土の中には金属が隠れていて、金属のまわりには水滴がつく。水のあるところには木が生える」というひとつの輪廻を発想の基本にしています。

 S市のOさんは、色白でポチャッとした体格の女性です。咳と痰が出始めてすでに三年になります。良くなったり悪くなったりしながら、専門医から抗生剤気管支拡張剤なども処方されていますが、治りきりにならないので人に聞いてやってきました。

 症状は、透明や白い痰がたくさん出て、胸が塞がって苦しく、なによりも咳がひっきりなしに出て息苦しく、ごはんがおいしくないのです。舌を見せてもらうと苔が白くて厚く粘っていました

 胃に水が滞っていると考えて、紫蘇の種とダイコンの種と芥子の種を擦って、袋に入れて煎じて飲むように勧めました。中国の三子養親湯(さんしようしんとう)という処方と同じ構成です。一週間もしないうちに苔がとれて食欲がわき、痰が出なくなり、もちろん咳も止まりました。五行論の土は脾、金は肺に通じます。脾と肺の関係は、土から金が生じるので、親と子の関係です。三つの種子で親の脾を養って、痰を消して咳を治す妙法です。

 胃腸を冷やすような生野菜・果物と乳製品や動物の脂を一緒にとらないように注意しました。

蘇子(そし)シソ科チリメンジソやその品種の分果。その香りと温性で痰を取り除き、咳を鎮める。気を下に巡らせるので便秘にも使われる。



絲瓜絡(しからく)


 M市のTさんは、もともと冷え性で下痢しやすい体質でした。病院に下痢を治してもらおうと行くと「キノホルム」という薬が出ました。四日飲んでも十日飲んでも下痢が治らず、医師からも続けて飲めば治るといわれて、飲んでいるうちに足がしびれ、脚に力が入らなくなりました。そのことを医師に相談すると、下痢が治らないのが原因と言われさらに続けました。スモン病の発生です。

 私が漢方に進路を求めたきっかけのうちのひとつがこのことでした。医師は厚生省が安全という治療を施し、薬剤師は医師の指示通り薬を患者さんに渡して、悲惨な薬害が発生したのです。こんな不条理なことに関わりたくなくて、漢方薬で患者さんを救えたらと考えたのです。

 陝西省中医学院の袁立新先生が日本においでになったので、スモン患者さんにおいでいただいて、検討会を開きました。そこで、下痢に効果のある薬草・足のしびれや脚のふらつきに効果のある薬草・目のかすみに効果のある薬草などが紹介されました。その中に絲瓜絡がありました。

 日本では、へちまはへちま水をとったり、繊維を風呂のあかすりに使われるほか、食用にもされるようです。薬草の教科書には、血の巡りを良くして胸や腹や関節筋肉の痛みをとると書いてあります。先生は教科書には書かれていないが「体の中に入った毒を取り除くはたらきもある」とのことでした。さらに、自宅で緑豆の粥を一日一回食べるように勧めました。同じように毒を体外に排出するのだそうです。

 漢方薬も副作用がゼロではありませんが、風邪薬などにみられるスティーブンジョンソン病などのような副作用は起こりにくいと思っています。もっと、漢方を上手に使える世の中になるといいと思います。

絲瓜絡(しからく)ウリ科ヘチマの成熟果実を水に沈めて腐らせて残した網状繊維束。お乳が腫れには蒲公英を、筋肉の痛みには桑の枝を合わせて煎じる。



祝!連載200回


 漢方の智恵はお陰さまで、二百回を迎えることが出来ました。支えてくれた人、応援してくれた人に感謝申し上げます。

 連載を続ける中で、初めのうちは、漢方薬の効能効果を伝えた先人の智恵に改めて感心する毎日でした。ところが、だんだんと薬草に頼る人間のわがままを前提に考えなくてはいけないような気になってきました。片寄った質と量の食生活・便利さの陰の運動不足・奪い合うことによるストレス社会。現代の病気で、これらに関係しないものは無いといっても過言ではないでしょう。

 たとえば、わたしたちがなにげなく毎日見ているテレビには、こんなにステキな車が発売になりました、こんなに便利な携帯電話があります、こんなにおいしいお酒がありますとたくさんの夢を与えてくれます。あったらいいなと、欲しくなります。

ところが、中国で同じようにテレビを見ていると「穏やかな生活の中に、欲望をかきたてる仕掛けが忍び寄っている。質素な中にもお互いを大切にする気持ちを忘れないで」と言いたくなる自分がいます。

最近、月周回衛星かぐやからの地球の美しい映像が送られてきて話題になっています。私は、白い雲をまとった青い地球をイメージしながら毎日気功をします。そして、日本人で初めて宇宙から地球を見た秋山豊寛さんが福島で自給の生活を目指しているように、私も地球の土と草と触れ合う楽しみがわかるようになってきました。

ゾウやクジラたちはむやみに殺し合いをしませんし、桁外れの蓄えはしません。人間に必要なのは財産や権力ではなく、大自然と愛と平和だと教えてくれます。

 植物はもともと自然環境に適応して、人間よりはるか昔に生まれてきました。地球環境を支配しコントロールしようと身の丈を知らない人間が、利用しても文句ひとつ言いません。人間は間違えなく植物に生かしてもらっています。私は、節制をして薬草に頼らないでもいられるような生活をしていきたい、地球を壊さない生活を選んでいきたいと願う毎日です



王不留行(おうふるぎょう)


 先日、一橋大学の教授をしている知人に会って来ました。彼の話では、最近の学生は論文を書く時に、ネットの百科事典のようなものをつぎはぎして持ってくると嘆いていました。それまでの教育の中で、自分の体験を通して人を思いやるような想像力が絶望的に不足しているというのです。

 漢方薬に使われている薬草の名前にはそれぞれ故事来歴があります。ゲンノショウコ現(げん)の証拠に下痢が治るとか、ドクダミ毒を矯(た)めるとか、挙げればキリがありません。

 王不留行は、日本ではあまりなじみのない薬草です。わたしが初めて教えてもらったのは、胆石の痛みを散らす時に、この小松菜の種のように小さな種を耳の胆のうに通じるツボに貼ると、痛みが緩和されるという話でした。当時、日本には茎や葉っぱしか輸入されていないように記憶していたので、貴重なものとしていただいてきました。

 私は勝手に王不留行の語源を「留まらせずに行(めぐら)せる王様」と思い込んでいました。複数の文献に、李時珍が「王の命令でも行(めぐる)作用をとどめることが出来ない」という意味だとあります。しかし、友人の陳志清先生は、別の言い伝えもあるとこんな話を聞かせてくれました。

 三国時代の話。ある日、王という乱暴者が兵士を引き連れてやって来たが、住民たちは戸を堅く閉じて、食べ物や住居の提供を拒んだ。結局、「王を留まらせず行かせた」。その地で発見された薬草との説でした。

 大切なのはネットや文献上の受け売りの言葉ではなく、想像力によって鍛えられたこころのステージの高さなのかもしれないと思う今日この頃です。

王不留行(おうふるぎょう)ナデシコ科植物の全草の場合と種子の場合がある。「通乳」「通経」「通淋」。乳腺炎・月経痛・排尿痛に用いられる。



益母草(やくもそう)


 中国にこんな昔話が残されています。あるところに、十歳になるかならないかの息子とその母親が暮らしていました。父親は息子が生まれてまもなく死んでしまい、母親も息子を産んでからたびたび腹痛を起こしやせ衰えて、生活は苦しくなる一方です。

 息子は母親の辛そうな様子を見て、薬草採りの男から効果のある薬草を買うように勧めますが、母親は「もう私はそう長くないから、無駄なお金を使わないように」と言います。

 息子は「ぼくのために、母さんを苦しませてしまった。これからはぼくが母さんの病気を治すから、元気に長生きして欲しいよ」薬草採りの男のところへ行き、母親の状態を説明して、三日分の薬草を買ってきて母親に煎じて飲ませました。すると、いくらか良くなったので、もっと飲ませようと思いました。ところが男は相手の足元を見て、すっかり良くするには3ヶ月かかる、といって3年かけても払いきれないような金額を要求しました。

 途方に暮れた息子は、一計を案じました。薬草採りの家のそばの木に登って待っていると、夜明け前に男が出かけて行きます。そっと後を付いて行くと、林の南側でなにやら草を採っています。男が帰ってから息子がそこに生えている草を採って家に持ち帰り、男から買った薬草の匂いと同じことを確かめると、母親にせっせと飲ませました。

 母親はそのお陰ですっかり元気になって働けるようになりました。その薬草の名前がわからなかったので、母親に役立つ草という意味で、益母草と名前を付けたそうです。

 益母草は、唇の色が暗かったり、月経の血に塊があったりする場合の月経痛に使われます。同じ血行を改善して痛みをとる薬でも、川■は頭痛にも、丹参はわき腹や胸の痛みにも使われますが、この益母草は、婦人科専門で、乳腺炎にも使われます。

益母草(やくもそう)シソ科ホソバメハジキの全草。血の循環が悪く、生理不順・生理痛・無月経のほか、産後の腹痛・悪露停滞・性器出血にもちいる。


■→草冠+弓


三■(さんりょう)


 春の味覚というと、山菜の天ぷらです。こしあぶらやタラの芽・うど・こごみなどと並んで、忘れてはならないのがふきのとうです。どころが、毎年、間違って毒草を口にしてしまって中毒を起こしたニュースが報道されます。ふきのとうに似た毒草にハシリドコロがあります。根を食べると嘔吐し走り回るところからこの名前が付いたそうです。成分にはアトロピン・スコポラミンなどが含まれていて、ここから成分を抽出して、消化器科や眼科には無くてはならない薬です。

 夏の終わりに紫色の特徴的な形の花をつけるトリカブトも有名な毒草ですが、無毒化して有益な薬草として役立っています大防風湯(だいぼうふうとう)八味地黄丸(はちみじおうがん)などに含まれて、患部を温めて痛みを鎮めます。

 三■も同じように有益な毒草です。江戸時代以前は、堕胎のために使われていたとのことです。

 現在では、中国医学で破血薬に分類されています。子宮筋腫や子宮内膜症・卵巣のう腫などの血の滞りを壊すことによって、患部の大きさを小さくしたり出血を抑えたり痛みを緩和する効果が期待されています。

 三■「水快宝(すいかいほう)」という名前で日本に輸入されているものに含まれています。三■莪朮(がじゅつ)山▲子(さんざし)の他に水蛭(すいてつ)といって、血を吸うヒルの乾燥したものを含んでいます。中国では、肝硬変などにも用いられるとのことです。

 昔の人は、毒草を転じて薬草として役立てる智恵を後世に伝えてきました。ところが、家庭用の化学薬品から毒ガスを発生させて自殺するニュースが流れます。日本を救う薬はどこにあるのでしょうか?

■→木+
▲→木+査


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