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防風


 小学校の頃に、防風林というものを教えてもらいました。上州の空っ風には「屋敷林」がありました。風から屋敷を守ってくれる林です。昔は本当に風が強く、家が壊されるかと思うほどでした。かかあ天下が今も引き継がれているかについては、言及しないことにします。

 漢方では、病気になる原因を大きく二つに分けています。心理的要素の強い内因自然的要素の強い外因です。外因には、六種類あります。変化の激しい「風」。冷えをおこす「寒」。熱を持って巡りを邪魔する「暑」。よどみをおこす「湿」。乾きをおこす「燥」。炎症をおこす「火」です。日本語でカゼを風邪と書きますが、これは、漢方の風邪(ふうじゃ)から来ていると思われます。

 防風は、日本で有名な処方の防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)に含まれています。もともとは、体外から冷えをともなった「風」という邪気が体表につくと、寒気や頭痛・咳などの症状が出ます。防風はそれを発散します。この処方はもうひとつ、身体の内側に熱を含んだ湿気の停滞を発散する働きも期待できます。日本では後半の湿気の停滞を取り除く効果だけが伝えられて、いまでは、肥満の処方としてしか知られていません。

 中国に玉屏風散(ぎょくへいふうさん)という処方があります。身体の周りに玉(ぎょく)で出来た屏風(びょうぶ)を立ててくれる薬という意味です。もうあの花粉症のクシャミ・鼻水・鼻づまり・目の痒み・のどの痛みはたくさんだという人や、風邪を引きやすい・治りにくい湿疹で悩んでいる人には、今から勧めたいお薬です。喉が渇いてから井戸を掘るのでは遅いのです。日本には「衛益顆粒(えいえきかりゅう)」という名前で輸入され、すぐれた効果でとても評判がよいです。

防風(ぼうふう)セリ科ボウフウの根。頭痛の妙薬「川■茶調散(せんきゅうちゃちょうさん)」関節痛の妙薬「大防風湯(だいぼうふうとう)」にも含まれる。

■→草冠+弓



沢瀉(たくしゃ)


 渡辺淳一さんのいう「鈍感力」という言葉が流行っています。弱い立場の人が言えるようになるのは歓迎します。でも、政治家が言っているのを聞くと、開き直りのようにも聞こえてしまいます。以前「老人力」という言葉もありました。私は、朝、起き立てのオシッコの勢いでその日の体調がわかります。

 漢方仲間のT医師に講演をお願いしたときに、次のような話を聞きました。「現代医学の薬と漢方薬の作用の違いのひとつに双方向の作用があります。たとえば、利尿剤に、一般名フロセミド(商品名ラシックス)五苓散(ごれいさん)があります。むくみのある患者さんに投与すると、両方とも利尿効果が出てむくみが改善されます。

 ところが、むくみのない患者さんにそれぞれの薬を投与すると、フロセミドでは更に利尿するのに対して、五苓散では利尿作用がみられませんでした。おどろくのはこれからです。脱水症状の患者さんにフロセミドを投与すると、どんな風に作用すると思いますか?実は、さらに利尿して脱水を悪化させました。しかし、脱水症状の患者さんに五苓散を投与すると、尿量を減少させて脱水症状の改善に働くのです」との趣旨のお話をいただきました。

 沢瀉は、この五苓散の中心の薬草です。便が軟らかすぎるときにも五苓散は勧められます。おしっこが出たいのに少ししか出ずにおしっこの出口が痛む膀胱炎には、日本では猪苓湯(ちょれいとう)が最初に勧められますが、中国では、より消炎の作用を持つ薬草が含まれている五淋散(ごりんさん)が最初に使われ、慢性の膀胱炎の予防に猪苓湯が使われる傾向があります。

 漢方薬の効能書きに「尿量減少、または頻尿傾向で」と意味不明なことが書いてあるのは、そういった双方向の作用があるためです。患者さんの「復元力(ふくげんりょく)」を発揮させてくれる効果は大歓迎です。

沢瀉(たくしゃ)オモダカ科サジオモダカの塊茎。足の裏がほてる人やむくんでめまいがする人など、水はけの悪い人に勧められる。



蒼耳子(そうじし)


 今年の花粉は少ないと予想されていましたが、イネ科の植物の花粉に見られるような、喉や鼻の奥のしみるような痛みや目の痒みなどに苦しむ患者さんが多いように見受けられます。夜、鼻が詰まって眠れなくて困る患者さんも多いです。

 漢方薬は、現代医学とは違った病気に対する考え方をしていますから、病名で薬を選んぶととんでもないことが起きます。

 M町に住むTさんは、慢性すい炎で内科のお医者さんから紹介を受けておいでになった患者さんです。舌の色は赤みが強く小さくひからびています。身体もやせていますがいつも微熱があるような状態です。漢方でいう「陰虚」といって、ちょうど自動車のアイドリングが高くてガソリンが減りやすくエンジンの温度が高いような体質です。六味丸の服用をお勧めして、良好な状態が続いていました。

 先日、透明な鼻水が出るというので、陰虚体質には合わないけれども「小青龍湯(しょうせいりゅうとう)」を試してみることにしました。小青龍湯は温めて透明の鼻水を止める薬です。案の定、3日もしないうちに「鼻血が出た」と電話がありました。鼻炎という病名でも、透明な鼻水でも、元の体質まで考慮に入れないとこういうことがあります。小青龍湯を飲むのを止めたらすぐに鼻血は収まりました。

 蒼耳子は、鼻づまりや黄色の臭いのある鼻汁の時に使われる薬草です。辛夷(しんい)=モクレンの花蕾、白し(びゃくし)=ヨロイグサの根と合わせると、現代医学でいう副鼻腔炎(蓄膿症)に効果があると中国ではいわれています。日本にも「鼻淵丸(びえんがん)」という名前で輸入されています。保険範囲ではエンビという処方に含まれています。両方とも効能書きには鼻炎とあります。近所の漢方に詳しい専門家に相談してください。

蒼耳子(そうじし)キク科オナモミの成熟果実。もともと、水のよどみを取り除いて気の流れを整える働きがある。雨の前に痛くなる関節痛やジクジクする皮膚炎に使われる。



大棗(たいそう)


 小学校のときに、友達の家に遊びに行くと、庭先にある樹から小さい木の実を取ってくれたことを思い出します。食べてみるとリンゴのようなサッパリした味でした。台所で洗ってお皿に盛られて出される果物を食べることに慣れていた私には、さっきまで日に当たって樹にぶら下がっていた木の実をズボンでこすって口に入れた、生暖かい感触が忘れられません。

 伝統的な中国の高齢者たちの健康食品の代表選手は、黒ゴマ・クルミ中国の女性たちの健康食品の代表選手は、阿膠(あきょう)という膠(にかわ)。中国の子供たちに与える健康食品の代表選手は、大棗です。

 漢方の原則は、瀉(しゃ)です。聞きなれない瀉とは一体なんでしょうか?簡単にいうと、瀉とは身体の中にある汚れを取り除くことです。漢方でいう「気」の流れがガチガチで巡らなかったり、「水」の流れがタプタプとよどんでいたり、「血」の巡りが悪くてドロドロだったりすることです。いくら美味しい料理でも、汚れたお皿に盛り付けたら台無しなように、補よりも先に瀉をしなければなりません。きれいになってから補います。補とは、足りないものを補うことです。

 高齢者には五臓六腑のうち、特に腎を補います。女性には気血のうち、特に血を補います。子供たちには、五臓六腑のうち、特に脾を補います。子供たちは、食べたもののエネルギーを吸収してはじめて成長できるので、「脾は後天の元」ともいいます。

 風邪が治る間がなく、食が細く、疲れやすく、気力もないO市のT君が、漢方薬を飲んでも効果が無いといっておいでになりました。一年間、小建中湯を飲んだが変化が無いとのことです。舌を見ると苔が厚くついています。晶三仙を二週間のんでこれを取り除いて、もう一度小建中湯を飲んでもらうと、半年もしないうちに目の力もしっかりして小学校を休むことがなくなりました。

大棗(たいそう)クロウメモドキ科のナツメの果実。夜中に叫んだり寝ぼけてあちこちぶつかったりする夜驚症には、甘麦大棗湯が良く効く。



海馬


 日本語の書き言葉としての漢字は、もともと中国から来ています。ですから、会話ができなくても筆談と手もあります。西安から上海に向かう長距離列車で、同室の中国人と仲良くなれて楽しかった記憶があります。「我 姓 井上」と書けば「私の姓は井上です」と通じます。

 「糖尿病」「結核」「痛風」などの病名でも、「不眠」「不妊」などの症状名でもそのまま通じます。中国語の本を読むのでも、アメリカ人がチャレンジするよりずっと楽です。

 ところが、「精神」というと、日本人は心の働きのことを思い浮かべます。しかし、漢方では、もう少し深く分析します。神は五臓六腑でいう心に宿る生命体のことです。それぞれの人に、それぞれの神が宿っていると考えるのはステキなことだと私は思います。精は、「精気が充ちる」という言葉があるように、五臓六腑でいう腎に貯蔵されるエネルギーのことです。発育や生殖能力の他に、ものごとを考える時や覚える時に使うエネルギーをいいます。

 海馬は、腎の陽気を補う働きがあるとされています。身体の温かみを助けて精神を活発にさせます。教科書には高齢者の息切れや頻尿や尿漏れや男性のED(勃起不全)や男女ののリビドー減少にも効果があるとされています。

 T市のIさんは、官庁に勤めていました。人間関係に疲れていたところ、合併などでかなり仕事が増えた上に今までのやり方では通じないことで、気分的に追い詰められてしまいました。気の流れを整える抑肝散(よくかんさん)をベースに海馬補腎丸を少量合わせて服用を勧めてみました。三ヶ月もしないうちに、気分の落ち込みが軽くなって、仕事以外の趣味にも楽しく出かけられるようになりました。

 脳の中に海馬という、短期の記憶を受け持っている部分があります。漢方薬の海馬は生殖能力の他、記憶の能力も助けます。漢字の不思議な縁を感じます。

海馬(かいば)ヨウジウオ科オオウミウマの干したもの。メスがオスのお腹に卵を産み、オスがお腹の中で育てる。オスが妊娠・出産するように見える。



貝母(ばいも)


 中国の地方を旅するのは、とても楽しいことです。北京や上海といった漢民族の大都市もそれなりのたのしみはありますが、内モンゴルや雲南省などの少数民族の地域に足を踏み入れると、また一味違った雰囲気に私たちの旅こころが否応なく刺激されます。

 浙江省は上海の南にある省で、杭州の西湖に訪れる人は多いようです。温州みかんから紹興酒・龍井茶・金華ハムなどが有名です。四川省は昔の蜀の都があった地域で、この省だけでほぼ日本と同じ人口を抱えていると聞きます。広漢市にある三星堆(さんせいたい)遺跡は黄河文明の遥か前に長江文明があったことを証明づけています。有名な観光地の九塞溝(きゅうさいこう)・黄龍(こうりゅう)はこの省にあります。

 この千q離れた二つの省に、別の有名なものがあります。それが薬草の貝母です。浙江省で採れる貝母は地名にちなんで浙貝と呼んだり、大きいので象貝と呼んだりします。日本で貝母というとこのことをいいます。風邪をひいて喉が痛く黄色の粘った痰がでるときの痰きり・咳止めに杏仁(きょうにん=アンズの種の中身)などと合わせて使われたり、化膿性のできものができたときに蒲公英(タンポポの根)と合わせて使われたりします。

 一方、四川省で採れる貝母も地名から川貝(せんばい)と呼ばれています。日本にはあまりなじみの無いこの川貝は、非常に素晴らしい働きがあるので中国では有名です。慢性の痰がほとんど出ないか、少量の粘った痰を伴った咳に、驚くような効果があるのです。私と同年代の中国人で知らない人はいないくらい有名な薬草です。

 G町のAさんは3年も乾いた咳と喉のかすれに困っていました。いろいろ手を尽くしましたが、思わしくありませんでした。枇杷の葉と款冬花(かんとうか=フキタンポポのつぼみ)と川貝を合わせて煎じて飲むと一週間もしないうちに治ってしまいました。自然の力を見つけた昔の人の知恵に脱帽でした。

貝母(ばいも)ユリ科アミガサユリ属植物の鱗茎。透明のサラサラした痰をともなう咳にはまったく効果が無い。舌の表面が乾いてツルツルの場合に効果がある。



閑話休題


 映画「眠る男」を観ました。小栗監督が、「泥の川」以降の三部作でみせてきた人間に対する深い影を含んだ洞察を、自身の脚本で散文詩のように描き出していました。一番印象深かったのは、山にゴゼさんとこもった男や水車小屋にいる男の所に子供が遊びに行くシーンです。昔は、社会から少し外れた人を緩やかに包み込む余裕があったと思います。口うるさい親から逃げる避難場所がありました。私が子供の頃にも、敷島公園の奥の方に「カラスのおじさん」という人がいて、競争社会から離れて暮らしていて、疲れた子供の気持ちに安らぎや夢を与えてくれていた気がします。

 夢といえば、ジョン・レノンは「イマジン」の中で、「国境など無いと想像してごらん。そんなことをいう僕のことを君らは、夢想家というかもしれない」と歌っています。日本国内では、殺人事件の無い日がなくなりつつあります。一日に百人近くの人が自殺しています。私たちが納豆を追いかけている間にです。世界では一日に四万人以上の人が、飢えて死んでいます。千年前の話しではありません。あなたが生きている今日この日にです。アメリカで高層ビルにいた五千人が一日で殺されたその日にも、四万人以上の人が食べ物を得られなくて死んでいたのです。食べ物が期限切れになる程たくさん蓄えられているその裏側では、食べ物が手に入らない地域があるのです。

 より快適な生活を求めようとして、かけがえのない宇宙船地球号の森林はすでに限界を越えて不足して、氷河は溶け始め、海水面はジワジワと上がってきています。日本でいえば、今年の東京の冬の温度は、過去百三十年で三度上昇しました。あと百年で一年の気温が六度上昇するという説さえあります。

 宇宙船地球号は、今まさに、タイタニック号の様相を強めています。このまま突き進めば、子の代には恐ろしい事態がやって来ないとはいえません。タイタニックのように、人々の苦しみを和らげる音楽を奏でるしかできないのでしょうか?

 小栗監督が自身の脚本で「眠る男」を発表したのが五十一歳のときです。映画の中で、眠る男が死んでも、映画は終わらずに人々は暮らしていました。私もその五十一歳を今年迎えます。世の中が恐ろしい事態になっても、親しい人たちが助け合って生きていってくれることを望みます。私もそろそろ自分自身の脚本で、共生を訴える仕事にとりかかる準備をしなくてはなりません。



呉茱萸(ごしゅゆ)


 今から二千五百年ほど前、中国の春秋戦国時代にこんな話が残されています。呉(ご)の国の王様は、隣の大国である楚(そ)の国の王様に毎年貢物をしていました。反抗する気持ちが無いことを示して、攻められないようにしていたのです。ある年の貢物の中に、特徴のある強い酸っぱい臭いのする薬草が含まれていました。

 楚の王様は「これはなんだ?」と聞きましたので、呉からの使者は「呉萸という薬でございます。」と答えました。王様は、「ワシの体を呉にするつもりか?」と怒って、使者を追い帰しました。それを脇で聞いていた侍医は、帰って行く使者からそっと呉萸を受け取りました。

 数年後、楚の王様は持病の腹痛を訴えました。侍医たちはいろいろな薬を試しましたが、効果が無く、王様の痛みは強くなる一方です。そこで、さきほどの侍医が呉萸を使った薬を飲ませると、あれほど強かった痛みが不思議に治りました。王様はその侍医を呼んで「命拾いをした。あの薬はなんという薬か?」と聞きました。侍医は、王様の体質を見抜いて、呉の国が貢物にした呉萸であることを告げました。

 楚の王様は、自分を大切に思ってくれた呉の国の王様と仲良くすることにしました。呉萸を使ってその後も治療効果をあげたその侍医の朱という名前を付けてその後は、呉茱萸と呼ぶことにしたとのことです。

 漢方では、冷えが積み重なって冷えのよどみが、激しい頭痛・腹痛・嘔吐・下痢などを発作的に起こす場合に使われます。

 I市のSさんは、いつも手足が冷たくお腹をこわしては下腹が痛くて困っていました人参湯(にんじんとう)啓脾湯(けいひとう)香蘇散(こうそさん)でなんとかコントロールできていました。しばらく薬を休んでいたら、また、胃腸を冷やしてストレスも重なったのでしょう、なかなか痛みが取れない日が続きました。

 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)は、手足や下腹部の冷えと痛みをとる薬です。この薬を飲んで、お腹や腰が出ないようにして全身を満遍なく動かしたらじきに痛みが軽くなりました。

呉茱萸(ごしゅゆ)ミカン科ホンゴシュユの未成熟な果実。冷えによって肝の気の流れがじゃまされて起きる激しい痛み下痢嘔吐に効果がある。単純な胃腸の冷えには生姜を使う。



紅花(こうか)


 西式健康法という名前を聞いたことがありますか?明治生まれの西勝造先生が提唱した健康法で、現在でも大阪の甲田光雄先生を初め、素晴らしい人々によって継承されています。その中には、健康雑誌で取り上げられた「金魚体操」「ごきぶり体操」も含まれています。

 冬に寒くなると特に手足の冷えを訴える患者さんが増えます。そんな方にお勧めするのが「毛管運動」(ごきぶり体操)です。仰向けに寝て、手と足を上に伸ばし勢い良く振るだけの運動です。動きが殺虫剤をかけられたごきぶりの動きに似ていることから健康雑誌では「ゴキブリ体操」と紹介されましたが正式には「毛細管発現運動」です。

 西式健康法では、現代医学の常識をくつがえす理論と実践が行われています。生命維持が出来ないカロリーの食事しかしないのに、ますます元気になります。血液をめぐらすのは心臓の排出する圧力ではなくて、末梢の血管であると考えています。確かに、心臓の筋肉の生み出す血液の流れだけで、指先や皮膚表面にまで血液をめぐらせるのは不可能です。「天動説」を」信じている人にとっては「地動説」はにわかに受け入れがたいでしょう。

 毛管運動を続けると手足の冷えが改善される例が多く見られます。民間療法では紅花一cをお茶のようにして飲むと末梢の血行を改善して冷えをとります。また、当帰(とうき)などと混ぜて浴剤として使うととても温まります。

 漢方ではおもに生理の血の中にレバーのような血の塊りが含まれたり唇の色が悪かったりする時の生理痛に使われます。Y町のNさんは子宮内膜症で慢性の痛みに困っていました。婦人科の専門医と相談して漢方のせんじ薬を試すことになりました。桃紅四物湯(とうこうしもつとう)です。苦しい痛みが三十パーセントに軽減され、まもなく待望の妊娠・出産にこぎつけました。

紅花(こうか)キク科ベニバナの管状花 一日三cで血の巡りを良くして痛みをとる。一日九cを越えると出血傾向になるので、妊婦には使わない。



淫羊かく(いんようかく)


 「はらたいらのジタバタ男の更年期」を読んでみました。さすがにウイットに富む内容でした。特にEDについては、ジタバタどころか達観している様子でした。年を取れば白髪になる。髪を染めるのもひとつの方法。染めないのもひとつの方法というようなスタンスの取りかたでした。

 「淫羊かく」には、さまざまな言い伝えがあります。植物の名前はイカリソウですが、花の形が船の錨(いかり)に似ていることからこの名前がついたといわれます。別の解釈に、この草によって体の一部が怒ってくるので、マラタケリグサともいわれます。

 「淫羊かく」の名前の由来は、次のような物語があります。杖をついているおじいさんの目の前を、疲れ切った様子の牡羊が横切って行きました。草むらで草をはむとたちどころに元気を取り戻し、群れの中に飛び込み数頭の牝羊と交わりました。またフラフラになって先ほどの草むらに行くやいなや、矢のように牝羊に挑みかかります。おじいさんが不思議に思ってその草をかんでみると、全身に血が巡って杖を放り出して家に向かいました。そこで放杖草(ほうじょうそう)ともいうのでそうです。

 M市のYさんは、45歳の男性です。やせぎみで夏でも手足の先が冷たくて元気がありません。気力がわかない自分が情けないと、「淫羊かく」のお酒を作って飲み始めました。夕食前に猪口に一杯をお湯で薄めて飲みます。一ヶ月もしないうちにフツフツとやる気が湧いてきて手足の冷えも収まったとのことです。一緒に来た奥さんも気のせいか顔のつやが良くなった気がしました。

 「淫羊かく」は、主に、薬酒として使われます。100グラムを1リットルの35度の焼酎に半年漬けて、飲みます。辛味があるのでハチミツを加えてお湯で薄めて飲むのが良いでしょう。冷えや足腰のだるさ・頻尿にも効果があります。はらたいらさんならどんな顔をして飲んだでしょうか?

淫羊かく(いんようかく) メギ科ホザキノイカリソウなどの葉。冷えをともなった勃起不全やだるさに勧められる。のぼせやほてりのある人には勧められない。



細辛(さいしん)


 年が明けると、花粉症(アレルギー性鼻炎)の患者さんにはゆううつな時期が近づいてきます。くしゃみのあとに鼻水が出てくれると心構えもできますが、ハッと気が付くと鼻水が流れているのには、困りものです。

 漢方では、同じ症状でも「証」によって治療方法が違います。くしゃみ・鼻水でも、喉が痛く鼻づまりもある場合、体の中に熱の邪気がよどんだ時に現れます。鼻水は透明ではなく黄色く粘ります。この場合、どくだみが効果があります。

 一方、もともと胃腸の働きが弱くくしゃみとゾクゾクと寒気がする場合、身体の中の水のよどみと体表から侵入した寒さの邪気が合わさって現れます。この場合、細辛が効果があります。細辛を含んでいる小青龍湯(しょうせいりゅうとう)は、くしゃみ・鼻水のほか、透明な痰や咳に効果があります。

 Fさんは中堅のサラリーマンです。喉が渇いて口内炎を繰り返すということでおいでになりました。一通り症状をうかがってから、続けて飲んでいる薬の名前を聞いて驚きました。小青龍湯を半年も症状の予防のために飲んでいるというのです。

 確かにFさんは春のスギ花粉の時期に、鼻炎で困っていました。しかし、小青龍湯は鼻水とくしゃみといった症状を緩和するための処方であって、体質改善に続けて飲むくすりではありません。症状が無いときに続けて飲めば、当然、熱の症状が出ます。これは薬の副作用でなく「誤治」といいます。

 私の漢方の先生の劉大器先生に報告したところ、「中国では、細辛は劇薬に相当します。『細心』の注意をはらって使わなければなりません。」とアドバイスしてくれました。 Fさんには、玉屏風散(ぎょうへいふうさん)を勧めてその後口内炎も鼻炎も再発していません。日本には衛益顆粒(えいえきかりゅう)として輸入されています。

細辛 ウマノスズカケ科ウスバサイシンの根 「チャングムの誓い」でヨンセンが難産で意識を失ったときに鼻から吹き込んだ粉がこれだと思われる。



葱白(そうはく)


 ネギは、薬味(やくみ)として蕎麦(そば)などに添えられる食品です。大人になるとわさび無しに刺身が食べられないように、ネギ無しでは蕎麦のうまさが引き立ちません。納豆にも無くてはなりません。納豆といえば、冬の夜明けに納豆屋さんの掛け声が聞こえると、東の空が赤く染まっていたのを思い出します。

 ネギには二つ思い出があります。ひとつは、刻みネギにかつおの削り節をかいて、その上にしょうゆをかけて、熱い炊きたてのご飯にかけて食べるのです。小学生の頃おかずが無くても辛味でご飯がすすみました。もうひとつは、子供を育てる頃に、焼きネギをした思い出です。子供は風邪を引くものですが、夜の咳には往生しました。親が見かねて焼きネギを教えてくれました。白いところを十aほど切って中が軟らかくなるまで焼いてガーゼのハンカチで包んで喉にまくのです。これにはずいぶん助けられました。子供が寝ないと男親でもなかなか眠れないからです。でも困ったことに、ネギの焼いた匂いで、焼き鳥が食べたくなって眠れなくなりました。

 風邪のひき始めに、汗が出ないときには葛根湯を、汗が出るときには桂枝湯を使います。汗が出るときに葛根湯を使ってはいけません。汗をかきすぎて風邪をこじらせる場合があります。単に風邪といって漢方薬を使うとやけどをします。

 ネギには発汗作用があるので、汗が出ないときにねぎみそなどで使います。ショウガをすって入れても良いです。汗が出てゾクゾクする寒気が収まったら、下着を替えて休みます。さらに桂皮を使ったシナモンティーを飲み、漢方でいう邪気をはらった後の体調を整えます。

 胃腸の冷えを取って働きを活発にしますから、脂や甘味のおかずで食欲を無くすより、梅干や大根と並んで、ネギの鰹節かけは良いおかずになると思います。

葱白(そうはく)ユリ科ネギの根を付けた白い茎。関西で使われる細いネギの葉には、温める働きは無く、気を巡らせるので頭や肩の張痛をとる働きがある。



肉桂(にっけい)


 肉桂はラテン名でシナモンと書かれています。ニッキ飴の元です。子供のときになめてみろというので口に入れてひどい目にあったのを今でも忘れることが出来ません。子供の体は基本的に漢方でいう陽気が盛んなので、辛く感じたり体が熱くなるのです。体が冷える歳になるとシナモンティーなども美味しく飲めるようになるのでしょう。

 肉桂は、お腹や腰の冷え・昼夜の頻尿・冷えが原因のお腹の痛みに使われます。日本では桂皮(けいひ)と総称しています。中国では枝を桂枝(けいし)、特に枝先を桂枝尖(けいしせん)といっています。木全体を人体に見立てて、手足の先に作用するのが桂枝です。寒気の風邪のときに汗を出させて治したり、冷えによる末梢の痛みや胃腸の痛みや動悸に使います。日本でなじみのある葛根湯などに含まれます。

 一方、肉桂は、木の幹の皮なので人体の幹に当たる腰を中心にした冷えと痛みに使います。八味地黄丸十全大補湯などに含まれます。おへそより下や腰の冷えに使います。

 みどり市のMさんは昭和十六年生まれの女性です。腰から下が冷たい水に浸っているように冷えて、夜間に五回もトイレに起きるので寝た気がしません。膝や腰も痛いので相談においでになりました。舌に異常が無いので、朝に八味地黄丸(はちみじおうがん)を夜に大防風湯(だいぼうふうとう)を勧めました。八味地黄丸には肉桂が含まれていますが、利尿作用もあるので昼間のうちに余分な水分を除く作戦です。

 二週間後においでになると、今まで五回起きていたのが一回で済むようになって、とても楽になったと喜んでくれました。しかも、腰から下の冷えや膝や腰の痛みも、漢方薬を飲む前の半分になったとのことです。冬の間は、続けて様子を見ることにしました。

肉桂(にっけい)クスノキ科ケイの幹皮。五臓を強く温める。煎じるときには、他の薬が煎じ終わったら肉桂1cを加え5分煎じてからこす。



閑話休題


 帯状疱疹になりました。これまで、帯状疱疹が疑われる患者さんがいれば五分でも早く専門医に受診し抗ウイルス剤の服用を後遺症の予防の意味で強く勧めていました。しかし、自分の体が実際に帯状疱疹と医師から診断を受けたとたん、自分の体を材料として東洋医学のやり方を経験してみようと腹をくくってしまいました。今は鍼と漢方薬で経過を観察中です。(患者さんには後遺症がなにより怖いのでそんな冒険はお勧めしませんが)

 三年前にもインフルエンザにかかって、このときはタミフルも漢方薬も飲まずに二日間はどちらが上なのか下なのかもわからない状態を経験しました。尊敬する医師に「インフルエンザのワクチン接種は医療人としての最低限のマナー」と言われても、抗菌剤で消毒した土で作られるトマトのような人間になりたくないので、接種も受けていません。わがままですが、仕事のために自分の生き方は変えたくないのです。

 「生きる」といえば、黒澤明監督の不朽の映画ですが、「わらびのこう」という、また違った角度から生きるということを考えさせてくれる映画がまもなく県内で上映されます。十二月二十三日に県社会福祉総合センターで二回上映されます。恩地日出夫監督も駆けつけ、お話もうかがえる予定で、私の関わっている群馬中国医療研究協会で前売りチケットも手に入ります。

 村田喜代子さんの同名の原作を読むと、社会の中で生きる地獄のような苦しみから、はからずも捨てられた者たちだからこそ得られる、生きるエネルギーを読み取れます。私たちの祖先は狩猟採取の生活から農耕牧畜の生活を選んで豊かになってきました。石油や電気や核のエネルギーを使ってより便利で快適な生活を享受しています。しかし、それらを手にしたままでは得られない、食べることの喜び・生きることの手ごたえ・死と死後の世界をも含めた非常に深い示唆に富んだ作品です。

 その小説「わらびのこう」を美しく豊かな山形の四季の中で恩地監督が映像化した作品ですから、ぜひ、観たい観せたい映画です。読者の皆さんと会場でお会いしたい気持ちで一杯です。



蛤■(ごうかい)


 先日、患者さんの集まりで、茶話会をしました。そのなかで、「漢方薬というと、店先にヘビのホルマリン漬け(正確にはアルコール漬け)やら、鹿の角(正確にはサイの角)やトカゲの干した(正確にはオオヤモリ)のがあって、奥から陰気な店主が出てくるっていうイメージ」と言われました。

 ヘビもトカゲも同じ爬虫類といわれますが、爬虫綱というそうです。動物を分類する方法では綱・目・亜目・下目・科・属・種という風に分けます。ヘビは脚と外耳・まぶたがなく、有鱗目・ヘビ亜目に属します。トカゲは同じ有鱗目・トカゲ亜目に属する総称で脚と外耳・まぶたがあります。その下の分類で下目でヤモリ・イグアナ・トカゲ・オオトカゲに分けられています。一方、イモリは両生綱サンショウウオ目イモリ科。ヤモリが屋守・守宮といわれ建物の壁にくっついているのに対して、イモリは井守といわれ水の中に棲んでいます。

 蛤■は以前オオヤモリと呼ばれていましたが、現在ではヤモリ科ヤモリ属でトッケイという種にあたります。

 漢方で使われるのはこのオオヤモリです。かわいそうに捕まえられると腹わたを取られ木の枝でムササビのように開かれて干されます。このときシッポがきれいにまっすぐに伸びるように気を付けます。特に効果があるのは尻尾の部分だからです。頭は毒があるとされ捨てます。売りに出されるときは、かならず雌雄向かい合わせにして売られます。やげんでひいて粉にするとき、必ず雌雄一緒にひいて一日1cを飲みます。

 作用は肺と腎を温めて強めるので、息を吸うときに息苦しい・勃起不全・明け方の下痢などに用いられます。日本には至宝三鞭丸(しほうさんべんがん)参茸丸(さんじょうがん)に含まれて輸入されています。

蛤■(ごうかい)ヤモリ科オオヤモリの内臓を除去して乾燥したもの。体力低下や老化による慢性の咳にクルミと合わせて効果を発揮する。

■→虫+介



胖大海(はんだいかい)


 カラオケブームは続いています。学生さんが試験の終わった日に6時間もカラオケ店で歌っていたなどという話を聞きます。これから忘年会のあとのお定まりのコースでもあります。普段から喉を使っていない人が歌いすぎて、喉がれで翌日たいへんな思いをしたなどという話も聞きます。学校の先生などは喉を酷使する仕事です。子供たちの声よりも大きい声で注意するのは厳しいものがあります。

 詩吟の先生が、困った顔で相談にやってきました。シーディーに録音の予定が入っているので、練習をしていたら声がかすれてしまってすこし痛みも感じる、本来の声が出ない。このままでは予定の変更をお願いしなくてはならない。漢方の知恵でなんとかならないか、という相談でした。

 舌を見るとやや赤みがかって、わずかに表面が乾いている印象がありました。時間が迫っていなければ、保険範囲で滋陰至宝湯(じいんしほうとう)か保険外で羅漢果山■晶(らかんかさんざしょう)というコンソメのように溶かして飲むものもあります。羅漢果は喉のかすれに良く使われる食品です。

 私は、より確実により早い効果が期待できる胖大海を選びました。これは梅干程度の大きさで、硬く乾燥している木の実です。これを二個と蝉の抜け殻の蝉退(せんたい)薄荷(ペパーミント)を合わせて急須(きゅうす)に熱湯をそそぎ、湯気を鼻から吸いながら五分ほど待って、胖大海が柔らかくなったら割り箸などでつついて崩し、汁を茶碗にとって、ゆっくり飲みおろす方法を勧めました。一ヵ月後、晴ればれとした笑顔で、シーディーを持って来てくれました。

 私はというと、今年の忘年会でも喉の調子を整えて、村田英雄さんの「度胸千両入り」を披露したいと練習に励んでいる毎日です。

胖大海(はんだいかい)アオギリ科ピンポン属植物の成熟果実。熱をともなう、しわがれ声・腫れるような喉の痛み・咳の他、便秘に伴うのぼせにも良い。

■→木+査



胡麻仁(ごまにん)


 テレビで「セサミストリート」という番組があります。初めて見たときに、いじめやいじけなどに対して決まりきった解決を用意していないスタンスの広さに驚きました。アメリカの良いところを見た気がしました。セサミはゴマの英語で、「千夜一夜物語」に出てくる「アリババと40人の盗賊」で、使う「開けゴマ」から来ていると聞きました。子供たちの内側に隠されている宝物が、この呪文で解き放たれることを願ったということだそうです。

 精進料理のゴマ豆腐などのように、養生・強壮食として知られていますが、一般には炒って冷ましてからすって使う方が吸収は良いようです。中国では白ゴマは食べ物で、黒ゴマには薬効があると考えられています。日本で玄米食をする場合、かならずごま塩をふりかけるようにします。陰陽のバランスを整えるのだそうです。

 中国漢方では、特に五臓六腑でいう肝腎の精血を補うので、過労によるめまい・目のかすみ・耳鳴り・手足のしびれなどに、「桑麻丸(そうまがん)」として、舌の色が紅く大きさがやや小さい場合に使われます。

 中国の古典「本草綱目(ほんぞうこうもく)」の中に書かれている「巨勝子酒」は六十%以上が黒ごまで、それにハトムギなどが含まれています。私が単純化して「黒ゴマ酒」を患者さんに勧めました。すると、耳鳴りやめまいが改善した人が何人も出て、健康雑誌に掲載されたことがあります。すった黒ゴマ百グラムを一リットルの焼酎(三十五度)に半年つけて漉します。毎晩適量をぬるま湯で薄めて飲みます。関節の痛み・だるさ・ひきつれに良いと古典にはありましたが、頭の空虚感・白髪にも効いたという人も出ました。せっかくなら枸杞子(クコシ)黄精(ナルコユリ)も合わせてお酒に漬けても良いかなとも思っています。引き上げたゴマのカスは、酒を絞ってから冷蔵庫に保存して、味噌汁などに適量を入れて食べても、カルシウムの補給になるかと思います。

胡麻仁(ごまにん)ゴマ科ゴマの成熟種子。油分が多いので、兎糞のようにコロコロになってしまう便秘には良いが、もともと下痢しやすい場合は注意が必要だ。



莱■子(らいふくし)


 中国からのお客さんをどんな日本料理でもてなすか頭を悩ました知人が、自宅で天ぷらを揚げました。エビやイカの他にかき揚げ・タマネギなどを出しました。天汁に大根おろしを入れるように勧めたら、西安から来たばかりの劉大器先生はいたく感動ししてつぶやきました。「日本の食事習慣から学ばねばならない。」中国の古典に油ものを食べるときに生の大根を合わせて食べるともたれないと書いてあるのに、現在の中国では大根を生で食べることを忘れ去られていたからです。

 大根は、日本に「大根役者」という言葉があります。どんなものとも合うが当たることがないという意味なのだそうです。炭水化物の消化を促進するので、からみ餅はたくさん食べられます。中国には「大根もち」という消化を助ける(餅を使わない)点心があります。痰を切って咳を鎮める働きもあります。気管支拡張剤でも収まらない、舌に厚い苔の付いている咳の場合大根と水飴で作る「大根飴」などで思わぬ効果におどろかされるケースがあります。

 動物の脂を含んでいる加工食品よりも、食物繊維を豊富に含んでいるだいこん・にんじん・ごぼう・れんこんといった根菜類やひじき・わかめ・こんぶといった海藻類、豆類、イモ類をたくさんとるようにすれば、メタボリック症候群などにもよいと思います。

 劉先生の後輩に当たる董先生が日本にやってきて、一番好きな料理は「大根葉とジャコの炒め」と言っていました。何杯でも日本の美味しいご飯が食べられると喜んでいました。たくさん食べても太らずに元気にしてくれるのが、だいこん料理です。

 莱■子は、消化を助ける「保和丸(ほわがん)」や舌苔が厚い人の咳に使われる「三子養親湯(さんしようしんとう)」などに含まれています。日本では手に入らない処方なので、農薬をついていない種を手に入れ、軽く炒ってすって煎じてもよいでしょう。

莱■子(らいふくし)アブラナ科ダイコンの種。人参・熟地黄・何首烏などの補剤の作用を減弱するので、一緒には用いない。

■→草冠+服



西洋人参(せいようにんじん)


 日本で薬用のニンジンというと、朝鮮人参は医薬品ですが、高麗人参は健康食品です。ニンジンはウコギ科のオタネニンジンで、産地によって吉林人参・和人参(長野県産)という分類方法があります。加工の仕方によって、晒参・白参・紅参などの分類方法があります。「参」が付いても漢方の作用上の分類では、キキョウ科の党参・ナデシコ科の太子参・セリ科の北沙参・キキョウ科の南沙参・ゴマノハグサ科の玄参・シソ科の丹参などという分け方もあります。

 西洋人参朝鮮人参と同じウコギ科の植物です。これは、もともとアメリカ大陸の原住民のネイティッブアメリカンが使っていた薬草という説と、中国人が持ち込んで栽培したという説などがあります。いずれにしても、ユーラシア大陸でなくてアメリカ大陸で採取される薬草です。

 身土不二という言葉があります。地球上にはいろいろな地域があります。気候風土に適した植物がそこに生え、その植物を頼って動物がそこに暮らします。赤道に近いところで摂れるものは体の熱を取る働きがあり、赤道から離れれば離れるほど体を温める働きがあるという理論です。日本では万能薬のように思われているニンジンですが、これだけ栄養過多・運動不足・地球温暖化の中で、かえってノボセや動悸や血圧の上昇などの副作用も心配です。

 西洋人参は、まだ寒さを感じる前に体を直接温めずに、体の奥の陽気を補ってくれる薬草です。暑い夏にたくさん汗をかき、汗と一緒に体内の大切な陽気も放出してしまい、更にそこにエアコンの冷たい風が当たれば、冬になって寒暖の差に弱かったり風邪を引きやすい体になってしまいます。それを予防するのがこの西洋人参の特徴です。

 また、頭脳労働で、体は疲れやすく虚弱なのに頭がのぼせて風をひきやすい人、高血圧傾向で倦怠感・口渇のある人に勧められます。

西洋人参(せいようにんじん)ウコギ科アメリカニンジンの根。効果が弱くなるので、鉄瓶で煎じない。生の大根・緑茶・コーヒーと一緒に服用しない。



胡桃肉(ことうにく)


 がつく言葉に、キュウリ(胡瓜)コショウ(胡椒)ゴマ(胡麻)あぐら(胡坐)と並んでクルミ(胡桃)があります。中国から見た辺境の地域を意味する言葉です。遠くペルシアの方から伝えられたという意味でしょう。胡桃はクルミの木全体を表現しています。現在私たちが食べているのは、種の中身ですから、正確には胡桃仁(ことうにん)核桃肉(かくとうにく)と呼ぶべきでしょう。

 クルミは食べ物だろうと思う人が多いでしょうが、中国では医食同源・薬食同源で、漢方薬の中に含まれています。過労や加齢のために腰や脚がだるく力が入らないときに中国で使われる、青娥丸(せいががん)という処方の中に含まれています。また、痰のほとんどなく「コホコホ」と力なく出る慢性の咳や、息を吸うのに苦労する呼吸困難には、「人参胡桃湯(にんじんことうとう)」という処方が中国では使われています。民間では虚弱者の便秘にも、腸を刺激しない緩下剤としてさかんに食べられています。

 北京の老中医(漢方の名医)の一人に路志正先生がいます。私が兄のように尊敬する路京華先生のお父さんです。以前、東京で一緒に食事をする機会がありましたので「先生の健康法は何ですか?」と聞くと「クルミとゴマを搗(つ)いて、ハチミツでねった自家製ジャムを、マントウにつけて食べている。」と答えてくれました。たしかに、西太后(せいたいごう)がなめらかな肌と黒い髪を保ったのは「胡桃酪(ことうらく)」というクルミを使った料理を食べていたからだという話しもうなずける、先生のなめらかな肌とつやのある黒い髪でした。

 先生は「脳の形に似ているから、脳の働きを助ける。物忘れに良い。これは教科書には書いていない」と私だけに小声で言いました。私にもっと食べろという意味だったのでしょう。

胡桃肉(ことうにく)クルミ科セイヨウグルミの成熟した核仁。薄皮には咳を止める働きがあるが、他の目的には薄皮は取り除いて用いる。


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