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熟地黄


 「漢方薬は長く飲んでも副作用はないのですか?」とよく聞かれます。基本的には、「ご飯や味噌汁を一生口にしても、副作用が無いのと同じです」と答えるようにしています。漢方薬を現代医学の薬と同じものさしを当てて、「この処方には甘草が入っているからむくみが起きる可能性がある」というところでいえば、そういうことが無いとはいえません。それではいかにもお役所的な解釈で、なじみません。私の解釈では、現代医学の薬品はモノです。一方、漢方薬は自然の中から選ばれた、パワーのあるいのちだと思います。

 現代医学の薬は、自然にある薬草などを分析してその中で有効と思われる単一の成分を石油などから人工的に作り上げ、発展・応用したものといえます。ところが、自然にしても人体にしてもわかっていない方が多いのに、ほんの一部分でもわかると全部わかっていると錯覚してしまう、そういう落とし穴にはまってしまうことがあります。その先には、自然は征服すべきものだ、という思い上がった考えが生まれてしまいます。自然が人間を生み出してくれて、人間はいずれ自然に帰っていくと思うのです。

 熟地黄は、養血薬の代表です。現代医学でいう貧血に近いのですが、血虚(けっきょ)といって、舌の色が淡くて、顔色につやがない・口唇や爪の色が淡い・頭のふらつき・経血量が少ない・経血色が淡い・目がかすむなどの症状や足腰のだるさなどに用いられます。四物湯(しもつとう)地黄丸(じおうがん)の主成分です。

 東京薬科大学非常勤講師の猪越恭也(いこしやすなり)先生は、「私はもう25年、杞菊地黄丸を飲んでいるが、副作用のようなものはない」。と話されていました。自分の体質に合った薬を持薬として長く服用するのは、健康に良い水を飲むのと同じように良いことだと思います。

ゴマノハグサ科カイケイジオウの肥大根を乾燥させたものを九回酒で蒸したもの。栄養分が濃いので胃にもたれるケースがある。食後に服用してもよい。



閑話休題


 漢方相談をしていてたびたび聞かれることがあります。「先生が勧めてくれた漢方薬の効能を本で調べたら、私に関係ないことが書いてあったんですが、間違えありませんか?」という質問です。

 一般に、日本でいう漢方は、現代医学の解釈を受けて紹介されています。そのため、漢方のものさしでなく、現代医学のものさしで紹介されています。山水画を描くときに油絵を描く道具で説明をするようなものです。

 たとえば、六味丸(ろくみがん)という処方があります。保険の上での適応は、疲れやすくて尿量減少または多尿で、時に口渇があるものの「排尿困難」「頻尿」「むくみ」「かゆみ」です。症状の羅列でそれぞれの症状の関係性がつかめません。漢方薬を現代医学的に解釈しようとした限界がここにあります。患者さんは「自分はむくみはあるが頻尿は無い」といって路頭に迷います。

 一方、中国漢方(正確には中国伝統医学)は、人体に関して正常な状態の「生理学」や異常な状態の「病態学」が整理されています。たくさんの情報を整理して「証」という概念にまとめあげて解釈します。ですから、お話をうかがうと患者さんのもともとの体質が読めて、舌を見ると患者さんの病気の原因が読めるのです。

 六味丸「滋陰補腎・瀉火」という作用を持っています。「腎陰虚損・火旺」の体質の患者さんに勧められます。「足の裏がほてることはありませんか」「最近物忘れが気になりませんか」とうかがうと、言わない事まで何で知っているんだと易者を見るような目で見られます。すべてのことが有機的に結びついているので、確認をしているだけです。

 さらに、方剤学が整理されているので、六味丸八味地黄丸・杞菊地黄丸・八仙丸・知柏地黄丸・牛車腎気丸などの類似処方が有機的に結びつき、患者さんのそのときそのときの病態の細かい変化に対応が可能なのです。



肉じゅ蓉


 二年前の夏に、北海道の帯広の近くにある知人の牧場にお邪魔したことがあります。そこは三親牧場といって、人に親しみ・肉体仕事に親しみ・自然に親しむことを目標に、三十年近く日高の森の中に根を張っています。都会の機械に囲まれた便利な生活に慣れてしまった私には、不便でも生きている手ごたえのある牧場の生活はとても新鮮でした。

 電気は自家発電なので、昼間は電気が付きません。ヒグマに出会わないように気を付けなくてはなりません。なによりも馬や牛の糞を避けて歩いていたら仕事になりません。半日もすると、糞につまずかないように長靴で踏みつけて歩けるようになりました。遥か山の麓まで続く牧場で気が付いたことがあります。

 牛たちが一日することといったら、草を食べて糞をすることだということです。都会の人間のように労働に追われることも無く、人間関係に悩むこともありません。日の届かない原生林に向かってモウとないて、背中に日の光を浴びて一日草を食べては、ところかまわず実に気持ちよく糞をひり出します。人間はファーストフードなどと言いながらあわてて食べ物を胃袋に納め、人に見せられないようなウンチをして、睡眠時間を切り詰めて、一体どこに幸せがあるのかわからないような生活をしています。野生の動物には便秘などというものは無いと思います。

 漢方には、過剰な状態には「瀉(しゃ)」といって取り除き、不足な状態には「補(ほ)」といって助ける方法をとります。

 日本では虚弱な人にも長期にわたって、センナアロエ大黄などの強力な瀉する下剤を使って、身体を弱めている患者さんが多いように感じます。中国では若い人には決明子し、高齢者や虚弱者には肉じゅ蓉何首烏して便秘を治療しています。

にくじゅよう ナマウツボ科ホンオニクの肉質茎。足腰の冷えをとるほか、力が入りにくい虚弱状態の改善に役立つ。性機能低下にも役立つ。



巴戟天


 「この玉の中の空気は中国の空気ですよ」。私が言うと皆さん驚きます。もちろん、玉の中のキャラメルのような丸薬も中国製です。その玉はプラスチックの半球をロウで継ぎ目を固めてあるので、中の丸薬も練りたての柔らかさを保って、まるで作ったばかりのようです。伝統的な中国の保存技術は驚くものがあります。

 一九七三年、中国湖南省長沙市の馬王堆(まおうたい)から出土されたミイラは、色彩の鮮やかな衣服を身にまとっていたといいます。さらに、しっかりとした髪の毛があり、肌は押すと弾力を持っていてまるで生きているかのようだと伝えられています。古代中国の保存技術は考えられない高い水準があったといえます。ミイラと漢方薬を一緒にしては申し訳ありませんが、薬も押すと弾力を持っていてまるで錬りたてのようです。

 その丸薬の名前は、「双料参茸丸(そうりょうさんじょうがん)」「参茸補血丸(さんじょうほけつがん)」です。鹿の幼角や吉林ニンジンのほかに、巴戟天を含んでいます。巴戟天は筋骨をたくましくして、冷えが原因の関節痛・むくみ・脱力に効果があります。さらに、体力低下による頻尿や尿漏れにも効果が期待できます。

 私と同世代の女性の例です。両下肢の冷えとしびれ・だるさ・歩行障害に困っていました。もともとは二十歳代に婦人科系の腫瘍で摘出術を受けて以来、腸閉塞を繰り返しました。その結局、便秘と下痢と吐き気が続き、両下肢の冷えとしびれ・だるさから歩行障害を起こしてしまったと考えられます。

 この患者さんに、巴戟天肉じゅ蓉(にくじゅよう)を加えたせんじ薬を服用してもらうと脚の冷えが取れて脚に力がついて、一定の効果が見られました。

 漢方の良いところは、患者さんの生活の質を高めることに目標を置いていることだと思います。少しでも患者さんの苦痛を軽減できればと思いました。
 
アカネ科ヤエヤマアオキ属の低木の根 中国医学でいう腎の陽気を高めて女性生殖器の冷えによる不妊・月経不順・下腹部痛に効果が期待できる。



山薬


 友人から食いしん坊と言われています。若かりし頃は、血の滴るようなステーキやカツ煮込みがあれば、ご飯が何杯でも食べられました。最近は味を楽しむ程度で、量はめっきり減りました。無駄に食べていたような気がします。それでも、麦トロやそばのトトロ汁は好物です。

 二十代の頃、ある食養生の講演会に参加したときのことです。講師は関西からおいでいただいた方だったと思います。要するに悪いものを口から入れない、いいものを選んで口から入れる、などと歯切れの良い説得力のあるお話しに引き込まれました。今でも忘れない一節があります。

 草食動物はシマウマでもキリンでもいつも立ちよるがな。夜寝るときかて首を起こしちょる。肉食動物はちゃうでぇ、獲物をとる時以外はいつでも寝とるでぇ。人間も同じやん。あんたらうちに帰ってよお見てみい。きょうびの子供ら、いつでも横んなってとるじゃろ。起きとられへんのじゃ。肉食動物になってしもうたんじゃ。食いもんが良おないんじゃ。そやから、「精が尽きたらぬめりのあるものを食べよ。根が尽きたら、根のあるものを食べよ」ゆうじゃろ。ダイコン・ニンジン・ゴボウ・レンコン、それからヤマイモじゃ。そやからわしの息子は、寝とることないでぇ、いつも立ちよる・・。会場がどっと受けましたが、そのときの私には、わかりませんでした。

 山薬は日本では強精食のように考えられています。中国漢方では強精にかかわる鹿の幼角などのように「腎」に働くとは考えていません。「脾」(胃腸)に働きかけると考えられています。胃腸の力を助ける消化酵素が働いて、食べたものの力が十分発揮されて余力が活力と強精につながると考えるのが自然だと思います。最近の研究では元気の良い精子を作るのに必要なアミノ酸を大量に含んでいることもわかってきました。

ヤマノイモ科中国ではナガイモ、日本ではヤマノイモの根茎。胃腸虚弱の他に、慢性の弱い咳・息切れ。頻尿・水っぽいオリモノにも勧められる。


人参


 日本で漢方の薬草といえば、なんにでも良いとされる人参がいの一番に出てきて当然ですが、中国では万能薬とは考えられていません。中国の教科書に「十八反・十九畏」という言葉があります。現代薬学でいうところの「配合禁忌」の意味で、飲み合わせてはいけない複数の薬草の組み合わせです。何千年も前からこのような視点があったことはすばらしいことです。この両方に人参は記載されています。それだけ個性が強い、言い方を換えれば扱いにくい薬草です。

 昔、ある金持ちがもっと元気になりたいと思って、有名な旅の医者を呼びつけました。しかし、医者は患者を一目診るなり、質素なものを食べて運動するように言いました。舌の紅みが強く、黄色い苔がべっとりと付いて、舌の裏側の血管も太く色もよくありません。食べ過ぎて肥り運動不足で気血の巡りが悪くなっていて、栄養過多と運動不足が疲れの原因と見たのです。

 ところが、その金持ちは納得しません。そこで医者は体の中の余分な栄養を取り除く安い薬草を煎じさせました。それでも金持ちは満足しません。「人参のような高い薬草を使えないのか?」医者は、この患者に人参を使えば、陽が亢じて陰を消耗して病気が余計悪くなると考えました。のぼせ・口の乾き・目の充血・口内炎・不眠・動悸・イライラ・性欲の異常亢進がおきます。血圧も上がる可能性があります。

 そこで、医者はしかたなく人参を煎じて金持ちに飲ませました。でも、大丈夫です。そのあとすぐに大根の種をすってかゆに混ぜて飲ませました。こうすることで人参の作用を抑えることができるのです。

 人参を飲むより足るを知る方が、われわれにも必要なことかもしれません。

ウコギ科オタネニンジンの根。同じ「参」を付けて「沙参」「玄参」、同じ「人参」を付けて「田七人参」などがあり、効果は全く異なる。



鶏内金


 「やせるのなんて、簡単です。ちょっと食べ過ぎれば、胃が動かなくなって食べられず下痢しますから、体重がどんどん減って、動けなくなってしまいます」。世の中、肥り過ぎを気にしている人ばかりかと思うと、肥りたくても肥れなくて、思うように生活を楽しめない人もいます。

 五年前においでになった、昭和十六年生まれの女性のMさんです。数ヶ所の消化器科の専門医に検査を受けましたが、特にこれといって大きな問題は発見されません。下痢・不眠も始まると、やせ細ってしまいます。おかゆやおじやのようなものばかり食べても体力がつきません。

 まず、規則正しい食事の時間と量を守ってよく噛み、冷たいものや脂の強いものは避けるようにしてもらいました。六君子湯や補中益気湯を試みたところ悪くはなりませんが、今ひとつ、すっきりしません。

 そこで、二ヵ月後から鶏内金と神麹(しんきく)を煎じて飲んでもらうようにしました。鶏内金は、ニワトリの中に隠れている金に値する薬という意味でしょう。消化能力の低い状態を改善する働きがあります。神麹も胃腸の機能低下によるゲップやもたれ・張り・下痢などに効果があります。「鬼に金棒」ならぬ「神様に金の延べ棒」です。

 それから四ヶ月したある日「先生、大丈夫でしょうか?」。それまで、「美味しいものを食べても夜中におなかが痛くなって苦しい思いをするのはいやだ」と、県内の旅行さえ控えていたMさんが、意を決したように言いました。中国四都市を巡る旅行に出掛けたいという相談でした。「それではこれをお守り代わりに」と晶三仙(しょうさんせん)を渡しました。漢方の消化剤です。旅行から帰ってきたMさんの目に自信の光が感じられたのは言うまでもありません。

鶏内金(けいないきん)キジ科ニワトリの砂嚢の内膜を干したもの。消化を助ける他、頻尿・尿漏れ・小児の夜尿症にもよく用いられている。



閑話休題


 奈良県在住の落語家の笑福亭小松師匠は、進行性の胃がんの手術を受けました。体調が思わしくなくて、家人に当たるようになりました。当時、小学生だった子供さんの悲しそうな目に気付き、やればできるお父さんの姿を示したいと考えました。鹿児島県庁から北海道庁まで歩き通したのは、8年前です。

 私も毎日、がん患者さんとお話しをしているうちに、自分もいつがんになるかわからない。たとえならないとしても、人生の区切りの五十歳の誕生日を目の前にして、あと何年生きられるだろうという不安を感じるようになりました。末期がんの患者さんがおっしゃるように「今日一日を感謝して生きよう」。なにか自分に区切り目となるジャンピングボードが欲しいと思いました。

 「明日、朝早く家を出て、赤城神社に行ってくるから・・」あっけに取られている家人をよそに、遠足気分です。「内観でいうように、お世話になったこと・恩返しが出来たこと・迷惑をかけたことを思い返しながら歩くぞっ!」

 群大病院の近くの自宅を朝五時半に出て、大胡町を経て一路北上して片道二十キロ。往復で四十キロ。歩き通せるか不安でした。最後の松並木は呼吸と腕振りで一気に登りつめました。十時前でした。帰りは嶺や北代田の知人宅を訪ねて、夕方四時に帰宅。五万三千百三十八歩でした。

  「私も歩ければ、四国を回りたい。井上さんが歩くなら一緒に歩きたい。いまはそれも叶わないから、私の代わりに行って来て欲しい。応援していますよ。」何人かの末期がんの患者さんが優しく手を握ってくれたぬくもりがよみがえりました。

 足の裏や脚の付け根の痛みは酷かったですが、赤城神社からの帰り道は、意識が半分ぼんやりして、幸せな気分に包まれていました。こころが穏やかで、もしかするとこれがエンドルフィンの働きなのかなと思いました。川越の帯津三敬病院名誉院長の帯津良一先生がおっしゃるように、霊性(魂)が健やかなら、たとえ肉体が病み・老い・死のうとも、健やかに死ねるのではないか。それを邪魔しない医療を探していきたいと思いました。



枇杷葉(びわよう)


 枇杷の実が落ちると、甘酸っぱい匂いが立ち込めます。初夏の風物詩で、昔は無花果(イチジク)とともに庶民の果物でしたが、最近は高級な果物として扱われています。枇杷の芽が出たので庭に植えようとしたら、年寄りにたしなめられました。「庭に枇杷を植えると病人が出る。」

 「枇杷と桃 葉ばかりながら 暑気払い」という川柳があるそうです。実は美味しいけれどそれ以上に葉に暑気払いの薬効が秘められているというのです。種にもアンズと同じ痰きり・咳止めの作用があります。枇杷の葉療法・温灸も知る人ぞ知る不思議な効果を持っている治療法です。枇杷が嫌われたのは、むしろ、病人が薬効を求めて、樹の周りに葉を取るために集まるからではないかと思います。昔は薬王樹と呼ばれていたのですから。

 中国漢方では、肺と胃の熱を取り清める、とされています。乾燥した熱い所に長くいると、少量の切れにくい痰をともなった咳に悩まされます。せかせかした生活をして辛い物を長く食べ過ぎると、胃が焼けるような不快感が出て時には胃液が上がってきます。苦い口臭も気になります。いずれも舌の赤みが強く表面の湿り気が足りなくなります。枇杷の葉を煎じたりお酒に漬けたりして服用します。

 大切なことは、葉の毛を歯ブラシのようなもので擦り落とすことです。そうしないと絨毛で反って咳が出ます。(心配なら木綿の袋に入れて煎じます)若い葉よりしっかりした厚い葉が良くて、表を軽く炒って使います。

 故伊藤聡拳兄に中国武術の手ほどきを受けたときに、「手揮琵琶」を教えられました。琵琶を弾くような姿勢で相手の攻撃をかわす技です。枇杷は、琵琶法師の琵琶に葉の形が似ているので木へんを付けて枇杷としたようです。拳兄の凛(りん)とした指先が眼に浮かびます。



桑白皮


 今から四十年以上前の話です。ボンネットバスで大胡に行くと見渡す限りの桑畑でした。「シャリシャリ」おカイコサマが桑の葉を食べる音が、暗い蚕室に響きます。雨の前には葉が重くなるので急いで葉を刈りに行きます。群馬県は火山灰地で、桑が育ちやすい土地です。

 桑は身近に生えている植物です。桑の実は「ドドメ」といって、以前は口の周りを紫色に染めて食べていたようです。最近は珍しいジャムとして売られていたりします。桑の実は漢方で「桑椹子(そうじんし)」といい、五臓六腑でいう肝の血を増やす作用があるので、舌の色が淡い場合のめまい・不眠・目のかすみ・耳鳴り・白髪・便秘・口の乾きなどに効果があります。中国ではシロップにして売られています。

 桑の枝は「桑枝(そうし)」といい、同じ肝の陰を補うので、リウマチなどの関節の痛みやひきつれ・運動障害を軽減します。さらに、下肢のむくみも軽減します。

 桑の葉は「桑葉(そうよう)」といい、軽い熱のある風邪の痰のからまない咳を鎮めます。さらに、イライラからの頭のふらつき・めまい・頭痛・目の充血・目の異物感・まぶしい感じ・目のかすみにも使われます。

 桑の根の皮は「桑白皮(そうはくひ)」といい、肺の中にある熱を取り除きよどんだ痰の流れを整えます。熱を伴った咳・胸が張るような呼吸困難・尿量減少・むくみに効果があります。

 昔は桑畑の畝(うね)に葉が平らに広がるホウレンソウが植わっていて、空っ風が吹いても表土を吹き飛ばすことは少なかったと言います。根を掘り起こして、囲炉裏で燃やした煙は目にしみました。

桑白皮(そうはくひ)クワ科カラグワのコルク層を除去した根皮。生では利尿、炒ると咳止めに働く。透明の痰が多い冷えを伴うものには使わない。



款冬花(かんとうか)


 子どもの時には、大人はどうしてこんなものを美味しいといって食べるのだろうと思う食べ物がありました。うどやわらび・ぜんまい・こごみ・たらの芽・ふきのとう・ぎぼうし、最近はこしあぶらも人気があります。天ぷらの他に酢味噌和えなども、書いているうちにたまらなく食べたくなりました。農産物直売所に駆け込みたくなってしまいます。

 日本には、医食同源の考え方の一つに、身土不二(しんどふじ)という言葉があります。地球の上では、それぞれの風土に合った植物が生えて、その植物に頼って動物が生かしてもらっているのです。日本で生活する人は何千万年も前から日本で食べられてきたものを食べるのが身体に合っている。その時期に生えているものを食べるのが身体に合っている、という教えです。

 秋から冬にかけて寒さを防ぐ知恵として、木が根に栄養を貯め、熊やリスが身体に脂肪を貯めるのと同じように、人間も脂ののった魚や木の実を食べて冬を越えます。春になるとアクの強い山菜を好んで食べて、余分な脂肪を脱ぎ去るようにするのです。一年中、脂ものばかりを食べて、この季節の苦いものを食べないと体の中に季節が無くなってしまいます。

 款冬花は、フキタンポポという名前で、葉がフキに似ていますが、別の植物です。透明の泡の混じった痰が出る咳に良く使われます。また、長びいてなかなか治らない咳にも体力を付けて咳を止めるとされています。同じキク科の紫■(しおん)と合わせてよく用いられています。

 快適な空調設備の整った部屋の中で座ったまま効率の良い仕事をしていると、体が楽を覚えてしまいます。本当は季節外れの空気を吸うことで、体内環境は乱されているのです。昔ながらの乾布摩擦などは身体を鍛える良い方法です。

款冬花(かんとうか)キク科フキタンポポの花蕾 煎じて汁を飲む他、タバコのように金網の上で焼いた煙を吸い込んでも咳や痰を鎮める。

■→草冠に宛(日本語パッチにないため作字しました。)



杏仁


 私は20年前に、中国の陝西(せんせい)中医学院の張学文先生に教えを受けました。だんだん気心が知れると、他の先生も遊びに来て冗談を言っていきます。張先生のあだ名は張丹参です。それほど、先生の書く処方には、血液の流れをサラサラにする丹参という薬草が良く使われていました。先生は「百の病気もこの薬を中心に治せる」とおっしゃっていました。

 むかし、中国のある村に、いろいろな病気をじょうずに治す医者がいました。その医者は、杏仁を良く使います。寒さで気の流れが滞って、胸苦しく・汗が出ず・頭が痛い患者さんが来ると紫蘇の葉と合わせます。もともと太っていていつも舌に厚い苔がついている患者さんが、痰をたくさん吐く咳をしてくるミカンの皮と合わせます。熱がでて、息苦しそうにして咳をしている石膏と合わせます。風邪が治りかかって、痰のからまない咳がでて、声のかすれる時桑の葉と合わせます。

 肌が乾き舌の色が紅く乾いている便秘の人が来ると麻の実と合わせます。イライラしたり気使いをすると便秘になる人には厚朴と合わせます。

 暑気に当たってむくんで息苦しく体がだるくて困っている人には竹の葉と合わせます。関節がリウマチのように痛く、夕方になると決まって熱がでる人にはハトムギと合わせます。

 みんなが良くなって喜びましたが、ひとつだけ困ったことがありました。それは、患者さんが医者にお礼を渡そうとしても、わずかしか受け取ってくれないことでした。そこで、患者さんたちは医者が杏仁を不自由なく手に入れられるように、感謝の気持ちを込めて医者の家の周りに杏の苗を植えることにしました。いつの間にか医者の家は杏の林の中にありました。

 それから、医院のことを「杏林」とも言うようになったということです。

杏仁(きょうにん)バラ科杏の種。中国語の杏子の呉音がアンズ。英語ではアプリコット。類似植物の種の甘扁桃はアーモンドだが、薬用にはならない。



閑話休題


 「やられたっ!」最近封切された張芸謀さん監督の映画「単騎千里を走る」は、これまでに経験したことのない感動を与えてくれました。老獪なマタギが仕掛けた罠にまんまとひっかかった狼になった気分です。

 高倉健さんにも期待していたので「君よ憤怒の河を渉れ」から「鉄道員(ぽっぽや)」まであらかじめ観なおしました。ずいぶん涙腺が緩くなった状態で今回の映画にアタックしました。

 中国映画の特徴は「初恋の来た道」「山の郵便配達」などでみられるように、ストーリーの奇抜さで驚かそうとはしない作品が多いようです。ところが、登場人物の演技力は胸の扉を強く叩きます。この映画の中でも、自分の子供の写真を撮ってきてくれた事を聞いたときの李加民の目に込められた思いは理性を越えて、私の魂をゆるがすものでした。張芸謀さんの狙いどおりの効果を表しました。健さんは脇役になっていました。

 私の映画経験は、仲宗根美紀の「病葉(わくらば)を・・」の歌で知られる「川は流れる」からです。小学校低学年の男の子には、勧善懲悪の理屈が通らないストーリーにたいして憤慨するしかありませんでした。東京時代に池袋文芸座にはよく通いました。「祭りの準備」は、高橋和巳を教えてくれた先輩の勧めで何度も観ました。

 最近ではDVDなども、一人の時間に隠れるように観ています。「阿弥陀堂だより」なども楽しみました。

 毎日、漢方相談においでになる患者さんのお話をうかがっていると、もっと肩の力を抜かなくちゃ息が詰まるだろうな、と思うことがしばしばです。殺伐としたニュースばかりが流れ続けると、私も含めてこころの中が砂漠のようになってしまうような気がします。人の目を見て人の息遣いとぬくもりを感じ、相手の気持ちを思いやりながら語り合う経験が不足しているのではないでしょうか?

 映画館から風の街に出た私に、人が人のいのちを大切に想うこころの力こそがたましいを癒してくれるという思いが、残りました。



瓦楞子(がりょうし)


 今日はバレンタインデー。多感な思春期を迎えている女性にとっても男性にとっても「胃が痛くなる」ような季節です。同級生のちょっとした視線が気になって胃が痛くなることもあるでしょう。信じられないかもしれませんが、世の中のことに鈍感になった私にも、思うだけで胃が痛くなる時期もあったのです。

 朝起きると胃が痛くて学校に行かれないとか仕事に出かけられないとかで悩んでいる人は意外と多いようです。また、「嫁姑の確執」にはじまって「亭主在宅症候群」とか胃が痛くなる種は数え切れません。

 小児科や心療内科では、胃の痛み制酸剤やH2(エイチツー)遮断剤が頻繁に処方されるようになりました。不快な痛みを楽にするには必要なのかもしれません。しかし、患者さんの中にはそういう薬になじめない患者さんもいます。

 瓦楞子水のよどみ・血のよどみを取り除き、痰や子宮筋腫の不快症状を緩和する働きがあり、さらに、上腹部の痛みやげっぷとともに酸っぱい液が胃から昇って来る症状を抑えるとされています。

 同じ貝類でも海蛤殻(かいごうかく)はハマグリですが、中国では痰のほかに甲状腺腫・頚部リンパ節腫やむくみ・腹水そして胃痛に効果があるとされています。貝歯(ばいし)はタカラガイですが、中国では高血圧に伴うめまい・頭痛・目の充血のほか、ちょっとしたことで驚きやすかたり、睡眠障害(眠りが浅い・夢が多い)に使われています。

 「しあわせは いつも じぶんの心が きめる」は、相田みつをさんの言葉です。自分ばかり辛いことがやってくると思えても、気が付かないところでいろいろな人に支えられているものです。そして海や大地の恵みによって生かされてきたのです。食べられることに悦(よろこ)び、ありがたいと感謝するこころを持てば、チョコレートをもらえなくても、その瞬間から幸せになれると思うのは私のひがみでしょうか?

瓦楞子(がりょうし)フネガイ科の貝の貝殻。炭でしっかり焼くと胃酸を中和し痛みを鎮める。生だと痰を出さ、しこりを散らすとされる。



香附子


 最近カタカナの言葉が頭の中に入らなくなって困っています。PMSなど言われると身構えてしまいます。プレメンス症候群といわれるとしかたなく頭が動き始めます。生理前にわけもなくイライラしたり、落ち込んだり、ゆううつになったり、肩が凝ったり顔がのぼせたりさまざまな不快症状が出ることだそうです。

 周期的にホルモンのシャワーを浴びて、生理で出血して出産をして子育てをして、がんにかかるリスクも多いと思います。それでも、単純な男性よりも平均寿命は長いのだから、すばらしい生命力を内に秘めているのだろうと思います。男性の更年期障害は自信を失う抑うつ的な傾向が強いようですが、女性の更年期障害はイライラ・のぼせなど発揚的な傾向が強いケースが多いように感じます。

 小沢昭一さんという役者さんがいます。おとぼけの役回りですが、どこか寂しくて達観しているところが好きです。長年続いているラジオ番組で、なぜか薬屋さんのご主人が奥さんにやり込められるシーンが頻繁に出てきます。薬屋の旦那さんはやつ当たりされやすいのでしょうか?

 日本ではなじみの薄い香附子ですが、中国では「気病の総司、女科の主帥」と称されて、血の巡りを邪魔しやすいのが気の巡り(ストレス)なので、気の巡りを整えて肝の気をのびやかにして気の滞りを解いてやれば、自ずから血は巡ると考えられています。

 おなかが張って痛いという消化器系の痛みから、生理前にバストが張って下着がずれても痛いような症状にも使われます。

 中国では、子宮筋腫や子宮内膜症の痛みに、枳実(きじつ)川楝子(せんれんし)と合わせて煎(せん)じて、使われます。
 
カヤツリグサ科ハマスゲの塊状に肥大した根茎。天日干しの後、空炒りして酢を混ぜてもう一度乾かすように炒る。酸は肝に薬を導くからである。



■苡仁(よくいにん)


 薬草で健康維持しようと試みる人が増えています。昔からよく使われる薬草に、ドクダミと並んでハトムギがあります。ハトムギは昔から田んぼの畝などに植えられ親しまれてきた薬草です。硬くて食べられないジュズダマとは交配しないように注意して栽培しましょう。栽培しやすい薬草です。土いじりは機械のゲームよりずっと気持ちのやわらぐ楽しみです。

安いハトムギ茶を買ってくると、殻だけを炒った物だったりしてがっかりします。美味しいのですが効果はいまひとつです。中身の方も入っているものが良いでしょう。

漢方では、胃腸と呼吸器に働いて、体内にある水のよどみをとってくれるとされています。むくみや尿量減少には茯苓などと合わせて煎じます。リウマチなどの関節の重だるさやむくみには麻黄などと合わせた「■苡仁湯(よくいにんとう)」という処方があります。肺や大腸の化膿性の疾患のほか、胃腸虚弱にともなう食欲減退や慢性の下痢「参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)」という処方にも使われます。女性のサラサラしたオリモノなどに山薬(ヤマイモ)と合わせて使われてきました。

肌がシットリすべすべになると言われていますが、私のこれまでの印象では、むしろムチムチしすぎているのを引き締めて肌理(きめ)を細かくしてくれると感じています。

昔から夏枯草と煎じていぼとりに親しまれてきました。最近では、体内の毒素を排出する効果も期待されています。胃・肺・大腸をはじめとしたがんの予防と治療に、副作用の考えられない抗がん剤として、安心して服用を勧められます。

■苡仁(よくいにん)イネ科ハトムギの種皮を除いた成熟種子。天日に干しただけのものは炎症をとって利尿する。炒って用いると胃腸を丈夫にして軟便傾向を改善する。

■→草冠+意 (日本語の標準パッチに入っていない字です。)


車前子


 昔話をします。漢の時代に馬武(マーウー)という将軍がいました。戦いのさなか、日照りが続き、雨不足で飲み水の不足から多くの兵士が病気になりました。のどが渇いて下腹が痛み小便の量が少なくなりました。酷くなると血尿が出て高熱を出して歩けなくなってしまいました。人ばかりでなく、戦力として大切な馬も同じようでした。

 ある村はずれに宿営したときのことです。あちこちの馬車につながれている馬が血尿で苦しんでいる中、ある馬車の馬だけ勢いのあるきれいな尿をして、元気が出てきました。馬の世話をしている兵士が不思議に思い、調べてみるとその馬のいるところだけに豚の耳のような葉っぱの草が生えていることに気付きました。

 他の馬にもこの葉っぱを食べさせるとみるみる血尿が止まり元気になりました。すぐさま将軍にこのことを報告すると、兵士たちにも煮て食べさせるように命令が下りました。案の定、兵士たちは元気を取り戻しました。

 このことを忘れないように、オオバコのことを中国では車前草といい、その種を車前子と呼ぶようになったということです。

 漢方では、五臓六腑の肝・腎・肺・小腸の熱を取ると言われています。肝は目につながっていますから、眼の充血や腫れ・痛みリンドウの根と煎じます。腎の熱では、むくみ・排尿困難アケビのツルと煎じます。肺の熱では、痰や咳キキョウの根と煎じます。小腸の熱では、吐き下しの急性胃腸炎の症状サルノコシカケと煎じます。

 最近では、オオバコの種の皮に含まれているヌルヌルの成分が痰きりの他、おなかの中で30倍にも膨らむのでダイエットにも役立つのではないかと注目されています。冷えのある人や妊婦にはお勧めできません。

オオバコ科オオバコの成熟種子。乾燥しただけのものは痰きりに、乾煎(からい)りして飽和食塩水をかけてもう一度乾くまで炒ると利尿に効果がある。



白花蛇舌草


 「川辺に遊んでいる鴨を見ていたら、来年の冬も見られるかわからないと気付きました。そうしたら、回りの木々も川の水もそこにいる鴨たちも、突然光り輝いて見えたのです。自分の命とまわりの景色がひとつに結ばれた気がしました」気功教室の間に、近況報告の時間があります。そのときにK・Kさんが紹介した話です。

 土曜日の気功教室は、がん患者・家族の会が主催しています。身体を動かす気功の間に、倉敷のすばるクリニックの伊丹仁朗院長が勧めている「いきがい療法」をまねして、楽しかったことを話してもらっています。みんなを笑わせるような話やうれしかったことを話してもらっています。治療で苦しかったり検査結果が思うようでなかったりの辛い闘病生活の中で、前向きに肯定的に生きている喜びを分かち合うことで、自己治癒力を高めようという治療方法です。目標を持った生活を送ることやお腹から笑うことによってNK(ナチュラルキラー)細胞の数を増やすことができると伊丹先生はおっしゃっています。

 白花蛇舌草は、もともと虫垂炎や皮膚化膿症・膀胱炎などの炎症に使われている薬草です。最近では、中国でインフルエンザやがんにともなう発熱にさかんに使われるようになりました。K・Kさんに勧めたところ、3日目に吐き気がして中止しました。話を聞くと、蛇が入っているのではないかと心配していました。そうではないと言うと安心して飲み始め、確かに身体の熱っぽいだるさが取れたと言って、喜んでいました。

 K・Kさんは、すい臓がんから脳にも転移しながら、ホメオパシーなどさまざまな治療法を試み、医療の常識では考えられない生命力を発揮して、長期にわたって良い状態を保ちました。気功や太極拳を通して宇宙・地球・自然との一体感を得、今日の命を味わっていただきたいと願っています。

アカネ科フタバムグラの全草。毒蛇に咬まれたときに半枝蓮・紫花地丁などと用いる。中国では肺がん・胃がんに茅根(イネ科チガヤの根)と用いられている。



蒲公英


 昔話をします。昔、ある金持ちの家の娘が乳房にできものができて困っていました。耐え難い痛みと熱ですが、恥ずかしくて医者に見せられません。理解の無い母親に「悪い男と遊んだ証拠だ」と決め付けられ、悔しさのあまり河に身を投げてしまいました。たまたま近くで漁をしていた漁師の娘が助けました。娘が濡れた服を着替えさせるときに、胸の腫れに気が付きました。漁師の娘は親に相談しました。すると漁師はギザギザの葉をした草を持ってきて搗いて貼らせ、干したものを煎じて飲ませました。一ヶ月もしないうちに腫れは引き熱も痛みもなくなり、家に戻ることにしました。その薬草の名前を教えてもらうのを忘れたので、漁師の姓が蒲、娘の名前が公英だったので、このように呼ぶようになったと伝えられています。

 現代医学でいう乳腺炎に近い症状と思われます。中国ではオデキ(皮膚化膿症)や急性虫垂炎にはスイカズラの芽スミレと合わせて、膿血性の痰にはドクダミと合わせて煎じて応用されています。

 乳腺症は乳腺炎と違ってしこりを中心とするものです。一番問題なのは、乳がんとの鑑別をしっかりしなければならないということだそうです。

 乳がんといえば、先日、国立病院機構高崎病院の「笑みの会」の集まりに参加させていただきました。石田常博院長先生が代表顧問を務める、乳がんの患者さんを中心とする患者会です。どんな状況になっても「笑み」を絶やさず、人生の質を高めていこうという趣旨と聞いています。医療技術ばかりでなく患者さん同士のこころの支え合いが求められています。

 管理栄養士の幕内秀夫さん(「粗食のすすめ」著者)によると若い乳がん患者さんが増加の一途をたどっているそうです。漢方の立場からも、「痰濁(たんだく)」(身体の中のよどみ)を作りにくい日本古来の食事の復興が急務と思われます。

キク科モウコタンポポの根・葉・茎。総苞外片がそり返るのは、セイヨウタンポポ。日本古来のたんぽぽは駆逐されつつある。



野菊花


 群馬ホスピスケア研究会主催の講演会に参加してきました。がんを始めとする末期治療に伴うさまざまな具体的問題から、悲しみを乗り越えるための「分かち合い」まで、自助グループとしての活動のひとつでした。講師の高崎出身の相川教授は私と同じ歳で、東京学芸大学において「対人心理学」を専門に研究なさっています。理論のみでなく、奥様を42歳の若さで亡された経験を通してお話をいただきました。

 患者さんの間でつぎのような危惧が広がっています。医療の現場が、決められた治療法を訴訟されないように終わらせる、マニュアルの作業になっていないか。患者さんの苦しみを共有したり、死への恐れや悲しみから眼をそらさず克服しようとする試みはどこかに置き忘れられてしまっていないか。WHO(世界保健機構)理事会で肉体の健康のみならず霊性(魂)の健康があってこそ人間丸ごとの健康といえるとした目標は、現場に届いているのだろうか。そんななかで、こうした会が必要とされるのは、当然の流れだと思いました。

 相川先生が質問の時間に、「ある種の緑内障について、心理療法で寛解しているケースをいくつか経験しています」という趣旨のお話をされました。ものごとに積極的過ぎる傾向のある患者さんに多いように思われます。百点満点で六十点で合格なら、六十三点で満足できずに百二十点か、できれば二百点をとりたがる傾向です。仕事の成績は優秀ですが、自分ばかりか周りにも厳しく、自分の中で空回りしてしまいがちなタイプです。

 漢方では、菊のつぼみのお茶を飲んだり、手ぬぐいの袋に入れて枕の上に乗せて寝ると、「肝の火」を冷まして、眼の充血や腫れて痛む・しぶくてまぶしい、頭が熱くて張ってさっぱりしない、肩が凝って首が痛いなどの症状に良いとされています。緑内障の患者さんにも応用できるのではないかと思われます。

キク科キク属植物の頭花。一月十八日のこの欄にも紹介したように、主に杭菊花は眼の充血に、野菊花は化膿に用いるが、特にこだわらなくてもよい。


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