上毛新聞に連載している健康情報をメールマガジンにてお届けします。希望者はメールアドレスをご登録下さい。

■メールマガジン・アドレス登録
メールアドレス(半角):
■メールマガジン・アドレス削除
メールアドレス(半角):


生地黄


 滋養強壮という言葉があります。地黄(じおう)滋養(じよう)に通じるイメージの薬草です。漢方でいう肝腎(身体の芯)の弱った傾向を修復してくれる働きがあります。四十年前から「たんぱく質が足りないよー」とコマーシャルが流れ、その頃から栄養補助食品は1年程度の周期で流行してはすたれてきました。この薬草は三千年以上の歴史があります。中国の昔話には「昔の人は、早寝早起きで飲食の節度を守ったから長生きしたのに、最近の若い者は・・」という言葉が残っているそうです。

 身体が衰弱すると体は冷えると一般には考えられているようです。中国の漢方でも、陽(身体を暖める力)が足りなくなると冷えると考えますが、陰(身体が熱くなりすぎないようにする力)が足りなくなると足の裏がほてったりすることがあると考えています。体は疲れているのに、焦燥感・のぼせ・口内炎・肌や髪の乾きややせなどが生じる場合もあります。とは、漢方でいう精・津液・血のことです。陰が足りなくなると、舌の色は赤みが強くなり舌の厚みが薄くなったり横幅も狭く、表面の湿り気が無くなり乾き、ひどいときはひび割れたりします。気分はイライラして眠れない場合もあります。「陰虚陽亢(いんきょようこう)」といって、糖尿病や甲状腺機能亢進症の進行した状態によくみられます。

 こういう場合に、中国では「増液湯(ぞうえきとう)」を、日本では「六味丸(ろくみがん)」「天王補心丹(てんおうほしんたん)」を勧めます。

 U型糖尿病の患者さんが増えていると聞きます。疲れ切った身体に更にムチを入れて陰を使い切るような生活を選ぶ現代人は、自然からの恵みの薬草を浪費するより、生活をまず改めるべきだと考えるのはわたしだけでしょうか?

ゴマノハグサ科カイケイジオウの肥大根。以前、アトピー性皮膚炎の患者さんが、浴剤として使って効果があったと聞いています。



決明子


 「涙」という曲がヒットして、ケツメイシというグループの名前がこの薬草の名前をとったと知りました。前回の夏枯草は眼の熱を取り除く作用がありました。漢方の考えでは主に排尿を通じて熱を取ったわけです。今回の決明子眼の熱を取りますが、こちらは排便と排尿の両方を通じて熱を取る働きがあります。中性脂肪やコレステロールが高い、いわゆる高脂血症といわれて便秘傾向がある場合、決明子をどくだみのようにせんじて飲む方法があります。センナ大黄よりも作用が穏やかで勧められます。

 知り合いの小児科医は、便秘や夜泣きや夜尿症や水いぼの子供さんに、よくせんじ薬を処方します。もちろん現代医学のお薬もあるのですが、より子供さんに負担のかからないと思われる漢方を希望される保護者の方が多いようです。そして、決明子竜眼肉ハトムギは、思ったより飲みにくくないようです。まれに、ココア味をつけるケースもありますが、たいていそのまま麦茶のように飲んでくれています。

 決明子は、便秘が原因の口臭にも効果があります。漢方では同じ眼の痛みでも、高血圧を伴うような体質から来るものと、急性の炎症は少し分けて考えます。急性の場合は菊の花や木賊(とくさ)や黄■(おうごん)を加えて煎じます。高血圧や緑内障を伴うような、漢方でいう肝の火が燃え上がっている体質の場合、龍胆草(リンドウ)夏枯草を加えて煎じます。

 中国のお年寄りの医師は処方の中に「草決明」と書くこともあります。そうすると「石決明」は何だと思いますか?実はあわびの貝殻です。こちらは急性の炎症にはほとんど使われなくて、内科的な眼の充血・腫れ・羞明(しゅうめい)を伴うのぼせ・めまいに使われます。

マメ科エビスグサの成熟種子。同じマメ科のカワラケツメイは山扁豆、ハブソウは望江南、いずれも葉や茎。今ではほとんど決明子で代用している。

■→草冠に今



閑話休題 「相互に理解が必要」


 久しぶりに北京を訪れてきました。初めて行ったのが二十五年で、次が十二年前でした。初めてのときはバスとトラックの他に乗用車をほとんど見ずにいわゆる「自転車の洪水」でしたが、今回の景色は4車線の高速道路を高級乗用車が洪水のように走り、高級マンションと高層ビルが林のように立っていて、隔世の感がありました。

 それでも、レンガを積み上げた横丁が続く胡同(フートン)に迷い込み、以前観た張芸謀(チャンイーモー)監督の映画に出てくるワンシーンに自分がいるような気持ちになるのは、日常から離れる素敵な時間です。砂ほこりのたつ街角にたたずみ、この街に生まれたとしたらどんな暮らしをしていたのだろうとか、人の流れを見ながらぼんやりする時間を過ごしてきました。

 中国旅行は、もう二度と行きたくないという人と何度でも行きたくなってしまうという人の差が激しいと聞きます。トイレが汚いとか人が乱暴とかが理由のようです。中国以外の国もそれなりに汚れているところはあるから、中国だけを汚いというのは日本人の潔癖症か差別意識の問題のように思います。

 一方、中国を尊敬する人の中には、日本の和服はもともと呉服だし、漢字も中国からいただいたもので、日本のものは取るに足らないという説を唱える人もいるようです。

 しかし、私の考えは違います。中国語と語順が全く違い独自の文法を持つ日本の話し言葉は、自然を克服すべき対象と捉えないとてもすばらしい言葉だと思います。日本の縄文時代には、部落同士が互いに尊重しながら殺し合いを避けてきた様子がうかがえると言います。肉体的には弥生人の末裔かもしれませんが、一万年もの間、支配関係を作らなかった縄文の文化を引き継いでいるものであることは、今後も誇りに語れるものだと思います。

 これからより一層、中国をはじめとしてアジアの国々の歴史を知識として「知る」だけでなく、お互いの心を「理解し合い」平和に共存していく道を探す必要があると強く感じた旅でした。



蝉退


 「沈黙の春」という本があります。夏に東京のお茶の水駅前でうるさいほどにセミが鳴いているのに、前橋ではなかなか聞くことができません。秋になってコオロギは鳴いてもクツワムシ・ウマオイ・カネタタキなど、図鑑でしか見られません。虫の音(ね)を発する前に虫の息になってしまたのでしょうか?

 セミで思い出すのが、春の赤城南面の公園を歩いたときのことです。更紗灯台躑躅(さらさどうだんつつじ)の咲き誇る中、春ゼミのせみ時雨に包まれて、この世ともあの世ともつかないひと時を過ごされてもらいました。土の中で7年近くすごし、2週間といわれる命を精一杯生ききる。そのひたむきさに自分の生き様を振り返る想いでした。

 長野の北相木村の診療所で、へき地医療に取り組む松橋和彦先生という医師がいます。彼が中国での4年に及ぶ中国漢方の研究を終えて帰国してから、協力してアトピー性皮膚炎の患者さんの治療に取り組んだことがあります。先生は、患者さんが強い痒みを訴えると、時に蝉退を処方することがありました。

 蝉退は、漢方でいう肝と肺の熱を冷ますとされています。昔の人はよくこんなにいろいろなものを口にして、そしてその効果を後世に伝えてくれたものだと感心します。今の日本では、食べるものと食べられないものは、決まっているように見えます。しかし、食べるものとされていても、本当にそれは私たちが食べるものだとどうやって決めたのでしょうか?

 蝉退は、身体の表面が熱く感じる風邪を引いた時に、喉の痛みや熱や咳を軽くしてくれるほか、急性の眼の充血にも良いとされています。もちろん、熱を持った皮膚の痒み・赤くなった炎症にも使われます。面白いのは、小児の夜驚症(夜泣き・不眠・寝ぼけ)に、釣藤散(ちょうとうさん)に加えると効果が高いと、中国ではよく使われます。

セミ科のクマゼミの仲間である大型セミ類の羽化後の抜け殻。別に蝉蛻とも蝉衣ともいう。喉がれには「胖大海(はんだいかい)」と煎(せん)じる。



牛蒡子


 「牛蒡子は、今年の4月から医薬品になったはずですよ。」高崎の病院に勤めている薬剤師さんから、電話がありました。厚生労働省が、食べ物と医薬品の法的な区別を決めます。牛蒡子とは、食べ物のゴボウの種です。それ以前は食べ物扱いでしたから、勝手にせんじて飲んだり炒って食べたりしても構いませんでした。これからは、お医者さんの処方せんが無いと手に入らなくなりました。

 牛蒡子は、昔から炎症を抑えて痛みをとったり熱を下げたり解毒・排膿などの働きがあって、慢性盲腸炎はこべと合わせて勧められると言い伝えられてきました。実際に病院できちんと治療を受けても原因不明の発熱・痛みを繰り返し訴える患者さんが、これでよくなったという事例も聞いています。

 15年前になると思いますが、知り合いの助産婦さんが、授乳婦の乳もみをするなかで、乳腺炎になにか安心な薬草はないかということで、牛蒡子を勧めました。すると思いのほか効果があったようで、助産婦仲間で広がって他県まで広がりました。ところが、厚生労働省が牛蒡子を不特定多数の患者さんに渡してはいけないと言うことになりました。そこで考えて「蒲公英根」を勧めることにしました。もともと、牛蒡子紫花地丁(すみれ)と合わせて乳腺炎に使われてきた、たんぽぽの根です。

 日本で風邪に効く漢方薬というと、まず葛根湯が思い浮かびます。しかし、葛根湯は冷えの邪気が体表に入り始めたときに、身体を温めて邪気をはらう処方です。熱の邪気が入ってしまったときのあまり使いやすい処方が見当たりません。「銀翹解毒丸(ぎんぎょうげどくがん)」には牛蒡子の他に、金銀花(スイカズラ)連翹(レンギョウ)が含まれて、喉の痛みをはじめ様々な炎症に優れた効果を発揮する頼りになる処方です。

キク科ゴボウの種。喉のはれもの、化膿したはれものの膿を散らす。種は一日3〜9gを搗き砕いて、煎じて飲む。黄色い痰にも良い。



閑話休題


 先日、帯津三敬塾クリニック鵜沼(うぬま)宏樹臨床気功師のセミナーに参加しました。中国にただ8年も滞在したのではないことは、そのポイントを絞ってわかりやすい語り口から想像できました。驚いたのは、彼に外気功をかけてもらったときです。いままで経験したことの無いような深い安らぎにただただ感動しました。

 実は、私も気功歴は長くて、もう26年になります。東京にいるときに友人に誘われて、中央線の西荻窪にある「ほびっと村」というサークルに参加して、楊名時先生の弟子の先生に手ほどきを受けて、それから上海に行きました。帰国後は、当時関西気功協会の代表を務めていた津村喬さんと気功の交流を進めてきました。特に敷島公園の松林で気功や太極拳をしていると、生まれたばかりのようなこだわりの無い気持ちにさせてもらって、本当に魂が幸せを感じているという感じがします。

 気功は、テレビなどで紹介されている、サーカスのようなものではなく、人間丸ごとに秘められている自然と合流する能力を高める修行のような気がします。肩の力を抜き背骨をほぐし、ゆったりとした呼吸を全身の細胞で行うと、目の前の一筋の草・松の木から空に浮かぶ雲までが光り輝いて見えてきます。「自分の」地位や財産、果ては肉体に対する執着からも解き放たれ、松葉一筋が兄弟のようにいとおしくて、今日一日を生かしていただいている命のありがたさを体の奥から湧き上がる感動とともに感じられます。

 現在、日本の病院に行くと待合室にあふれんばかりの患者さんがいらっしゃいます。中国では、がんをはじめとして治りにくい病気の場合、気功を指導して「自分が主治医」という態度で向かい合う自助グループが盛んに活動しています。日本でももっと気功を活用することは、患者さんのQOL(生活の質)を高める効果があると確信しています。

 気功は人と競ってやるものではなく、全くお金のかからない健康法だと思います。自然に添った生き方をしていれば、たとえ病を得ていようとも、その一瞬の最高の健康を得られるのではないでしょうか? それこそが、帯津先生の言う「養生」なんだろうと思います。



柏子仁


 以前、気配りのすすめという本がたくさん売れたことがありました。日本人の美徳としての気配りが社会を暮らしやすくするという意味だったように思います。ところが、広い世界を見回してみると、もっとダイレクトに喜びや悲しみを伝え合う方が自然のような気がするのは、私だけでしょうか?

 お嫁さんのあのしぐさが気に入らない、仕事のできない上司にイライラする。近所の奥さんがいった言葉は、どういう意味だったんだろう?などと考えているうちに、四六時中イライラしていつも緊張がとれず、気分が落ち着かなくなり、不眠に悩まされることがあります。現代医学の薬で眠ることはできても、寝た充実感が無い、いつも頭がぼんやりするなどの不快感に悩まされる人も多いようです。

 不眠の治療は、原因によって漢方薬が違います。クヨクヨすぎたことを後悔するタイプで夢ばかり見る人には「帰脾湯(きひとう)」を勧めます。舌が大きく色が白いです。緊張と不安は5月に増えます。「柴胡加龍骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」を勧めます。イライラや肩こりが特徴です。梅雨時に増えるのが、舌の苔がべっとりと付くタイプに勧められる「竹如温胆湯(ちくじょうんたんとう)」です。からだの重だるさ・憂鬱感が特徴です。

 夏の終わりに多いのが、夏ばてと心労が重なって、寝汗と動悸を伴う不眠です。漢方でいう「火」「肝」にあるうちは、あせりやのぼせがあり「酸棗仁湯(さんそうにんとう)ですみますが、「心・腎」まで「火」がおよぶと便秘ばかりか健忘・憔悴までおきます。柏子仁を含む「天王補心丹(てんおうほしんたん)」「柏子養心丸(はくようしんがん)」で精神疲労を癒しながら気持ちのいい熟睡感を得られるようにしたいものです。

 気配りして他人から良く見られるようにするよりは、自分が自分らしく楽しんで輝く方が自然に生きられるような気がします。

ヒノキ科コノテガシワの成熟種仁。大切な人を突然失ったりした驚きと悲しみで眠れない・落ち着かない・動悸・不安などのときに効果がある。



柏子仁


 以前、気配りのすすめという本がたくさん売れたことがありました。日本人の美徳としての気配りが社会を暮らしやすくするという意味だったように思います。ところが、広い世界を見回してみると、もっとダイレクトに喜びや悲しみを伝え合う方が自然のような気がするのは、私だけでしょうか?

 お嫁さんのあのしぐさが気に入らない、仕事のできない上司にイライラする。近所の奥さんがいった言葉は、どういう意味だったんだろう?などと考えているうちに、四六時中イライラしていつも緊張がとれず、気分が落ち着かなくなり、不眠に悩まされることがあります。現代医学の薬で眠ることはできても、寝た充実感が無い、いつも頭がぼんやりするなどの不快感に悩まされる人も多いようです。

 不眠の治療は、原因によって漢方薬が違います。クヨクヨすぎたことを後悔するタイプで夢ばかり見る人には「帰脾湯(きひとう)」を勧めます。舌が大きく色が白いです。緊張と不安は5月に増えます。「柴胡加龍骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」を勧めます。イライラや肩こりが特徴です。梅雨時に増えるのが、舌の苔がべっとりと付くタイプに勧められる「竹如温胆湯(ちくじょうんたんとう)」です。からだの重だるさ・憂鬱感が特徴です。

 夏の終わりに多いのが、夏ばてと心労が重なって、寝汗と動悸を伴う不眠です。漢方でいう「火」「肝」にあるうちは、あせりやのぼせがあり「酸棗仁湯(さんそうにんとう)ですみますが、「心・腎」まで「火」がおよぶと便秘ばかりか健忘・憔悴までおきます。柏子仁を含む「天王補心丹(てんおうほしんたん)」「柏子養心丸(はくようしんがん)」で精神疲労を癒しながら気持ちのいい熟睡感を得られるようにしたいものです。

 気配りして他人から良く見られるようにするよりは、自分が自分らしく楽しんで輝く方が自然に生きられるような気がします。

ヒノキ科コノテガシワの成熟種仁。大切な人を突然失ったりした驚きと悲しみで眠れない・落ち着かない・動悸・不安などのときに効果がある。



石膏


 アスベストとか石綿とか、普通に使われていたものが、実は危険だったという話は繰り返し聞かされます。しかも、外国で危険だとされても日本ではなかなか聞き入れてもらえないという歯がゆさがあります。私が学生の頃、スモン病のことを知って愕然としたのを昨日のことのように覚えています。「完全」と思われている学問とか科学というものに、限界があることを自覚しなければならないと思いました。

 さらに、健康を守るための様々な機関があまり機能していなかったところに、悲劇の原因があると思いました。それは、薬害エイズでも同じ形で現れています。患者さんを病気の苦しみから救おうと医療の世界に入っても、手渡す薬の信用が無くなった時、私は自然に添った漢方の道を選びました。自分の手渡した薬が実は苦しみを増やすものだったなんてことは、耐えられないと思ったからです。

 石膏は、以前は骨折のときに使われたり、美術の石膏像などのイメージがありますが、鉱石を煎じて飲むと、熱をとる働きがあります。漢方では、「気分」「肺・胃」の熱と言います。日常で言う「気分が良い」というときの「気分」でなく、病気の進行度がまだ「血分」に入っていないという意味で、一言で言うと初期という意味です。

 アトピー性皮膚炎で、皮膚の表面が鮮やかな赤い色で熱を持って腫れて痒いときがあります。そういうときに、白虎湯(びゃっことう)を勧めます。舌の色は鮮やかな紅色で苔は黄色くて乾燥しているときに使えます。そういう時はいくらでも冷たい水を飲みたがります。同じ症状があれば、口内炎や胃炎・風邪の初期・急性腎盂(じんう)腎炎のときにも中国では使われています。ステロイドホルモン剤でも熱がない患者さんが楽になる例を経験しています。

 石膏(せっこう)含水硫酸カルシウム鉱石を砕いたもの。日本で考えられた桔梗と合わせた処方は、排膿作用も期待できて保険適応である。



槐角


 今年の夏も、異常な暑さにまいってしまった人も多いのではないでしょうか?食欲などは回復を早く自覚できますが、からだの奥深くの疲れはなかなか気付きにくいものです。残暑はこれからが本番。質の良い睡眠をとり、夏の疲れをとるために、早寝をしましょう。鍛えるときと休むときをしっかり区別して、めりはりをつけていきましょう。

 夏の終わりに、漢方相談が増える分野が、痔の腫れや痛み・出血です。もともと人間は、直立歩行をするようになって、肛門に充血が起きやすくなってしまったと言われています。歩くことで筋肉が鍛えられれば良いのですが、事務仕事や運転仕事が多くなって、痔の患者さんは増えているようです。ところが、なかなか専門医に見せるのが恥ずかしくてどうしても先延ばしになってしまうのが実情です。悪性の疾患も増えていますから、一年に一回は定期健診で直腸診を受けるのをお勧めします。

 漢方では、痔のおおもとの原因は水のよどみ=湿熱(しつねつ)と考えています。それによって血のよどみが出来て痔核となって腫れて痛んだり、出血をすると考えています。お酒の飲み過ぎや辛いものや脂ものの摂り過ぎによって出来た湿熱が血の循環を邪魔して痔の原因になるのです。そこに下痢や便秘・ストレス、夏の疲れが引き金となって一気に症状が表れるのです。

 日本で痔の第一選択の乙字湯(おつじとう)という処方があります。しかし、直接出血を止めたり血液循環を改善する成分が足りない印象があります。人によっては、下痢になって調子が悪くなるケースもあります。槐角丸は痛みや腫れ・熱をとり、出血を抑えてくれます。舌の色の赤みが強く黄色い苔が厚く付いている場合の頭痛・めまい・いらいらにも応用できます。

 マメ科エンジュの成熟果実を干したもの。花を槐花、花蕾を槐花米といって、最近はハーブティーとしても人気があり、のぼせ・いらいらに用いられている。



茯苓


 最近、患者さんには必ず「氷を浮かべた飲み物を飲まないようにしてください」と言っています。胃腸は36度の温度があって、はじめて酵素の働きを得て消化吸収をします。口が欲しいからといって、胃腸をとことんいじめるように繰り返し冷やしたら取り返しのつかないことになります。

 食欲が落ちたり、消化吸収がうまくいかなくなってしまいます。その結果、食べたもののエネルギーが吸収できなくなります。疲れやすくなって、元気がなくなり、手足がだるくなります。さらに、不必要なものを排泄する力も低下します。からだのあちこちにむくみがでます。舌にべっとりと厚く汚れた苔がつき、体臭とともに口臭も気になります。

 漢方でいう五臓の「肝・心・肺・腎」は皆、脾と胃の働きによって、エネルギーを得ています。これらが脾と胃からエネルギーを得られないと、当然不都合が起きてきます。高血圧症・高脂血症・不眠・アレルギー症状・糖尿病など数え上げたら切りがありません。現代医学ではそれぞれ切り離された別の疾患でも、漢方から見ると「水が高きより低きに流れる」ようなものです。結果をいじっても治らないことは多いものです。あせらず、原因から治していくほうが案外早いですし、からだが治ってくれるのです。

 茯苓は、胃腸を中心にだぶついた水分を滲み出すように取り除いて、本来の働きを取り戻すようにしてくれる薬草です。むくみの他に、はきけ・むかつき・めまいなどにも効果があります。六君子湯補中益気湯に含まれています。

 松の根に近い部分を茯神といって、夜はちょっとした音でも目覚めたり、昼はちょっとした音でも驚いたり、不安になったり、ドキドキしたりする場合に用いられます。帰脾湯天王補心丹に含まれています。

 冷蔵庫は食べ物を保存するためのものであって、胃をいじめるためのものではありません。機械に振り回されないようにしましょう。

サルノコシカケ科マツホドの菌核。人参や山薬は「気」を補う薬草として扱われているが、これは健脾補中といって、「気」を生み出す源の「脾」を補う。



閑話休題「がん患者に死生観を」


 体調が悪いときに、医者にかかり診断を受けて適切な治療を受けるのは患者の最低の権利だろうと思います。しばらく前までがんの場合、患者本人が病名を知らされずにゆがんだ形で治療が進められてきました。「告知」などという言葉も過去のものになりそうです。患者は医師から現在の状況と今後の治療の考えられるいくつかの選択肢の説明を受けて自己責任で治療方針を決めていく時代がそこまで来ているように思われます。

 とはいうものの、現実はどうかというと、外来の短い時間に病名を告げられたり、手術が終われば放り出されるように退院させられたりして、不安をどこに訴えてよいのかわからず「難民」になってしまうケースが後を絶ちません。まもなく三人に一人はがんにかかる時代になりそうなのに、患者さんのこころのケアーを忙しい現場でどう形だけのものでないようにできるかは、まだ端緒についたばかりと言わざるを得ません。

 青木新門さんという作家に「納棺夫日記」という作品があります。そこに、次のような一節がありました。延命思想の医師団と生に執着する親族と冷たい生命維持装置に囲まれて、患者さんはそれまでの生を振り返り死と対峙し受け入れる時間さえも奪われてしまう、というような意味だったと思います。漠然とした死がはっきりとしたものに見えたからこそ、残された生もまたはっきりとしたものに見えてくるチャンスなのではないでしょうか。

 この本を紹介してくださったのが、川越の帯津三敬病院の名誉院長、帯津良一医師です。先生の著書「ガンに勝った人たちの死生観」には死の受容=いつ死んでもいいという覚悟を持つことにより、反ってこころの安心を得られ思いもかけないような良い変化が現れることがある、と書かれていました。それは、千尋の谷に掛けられた丸木橋を渡るときに、すぐ下に頑丈な安全ネットがあったら肩の力が抜けて楽々と渡れるものです。その安全ネットこそが、死の受容=諦める=明らめることだと読みました。

 現在、いろいろなところに、がん患者向けや家族向けの会が運営されています。高額な健康食品を売りつけるためのものでなく、政治・宗教がらみのものでなく、患者・家族のこころのいやしの場としての患者会に参加して仲間同士で支えあえるとすばらしいと思います。

 いまここを大切にしそこからまた今日を意義のあるものにしましょう。生まれてきて死ななかった人はこれまでいないのですから。



当帰


 漢方の考え方に「陰陽」があります。そういうとたいていの人は、陰は冷え性の体質で陽はのぼせの体質とイメージするようです。ややもすると、「陰気」「陽気」といって、陰のイメージはマイナスの偏っています。

 漢方の元の国、中国ではそういう考え方をしていません。日向が陽で日陰が陰です。10円玉硬貨の表が陽で裏が陰です。両方なければなりたたないのです。アルコールランプのアルコールが陰で、燃えている炎が陽です。材料が陰で働きが陽です。陰がなければ陽は働けません。水が無ければ(太陽が照っても)木は生えません。植物で言う水に相当するものが、人体でいうと「血(けつ)」と「津液(しんえき)」です。

 この時期、クーラーや薄着による冷えで体調を崩す人が多いようです。最近よくいわれるPMS(月経前緊張症)や月経困難と呼ばれる不快症状は、汗をかくはずの夏なのに、無理やり冷やされて汗をかけずに自律神経の安定が崩れるところが原因のひとつとも考えられます。

 当帰は、陰を補う働きを持つ代表の薬草です。血を補い生理を整える働き、血行を促進して痛みを止める働き、腸を潤し便通を整える働きがあります。経血が黒っぽかったり、塊りがあるのが普通、生理は痛いものだと思い込んでいる女性も多いようです。

 当帰を含む「■帰調血飲(きゅうきちょうけついん)」を飲んで経血の質がサラサラになって痛みが消えたという患者さんは後を絶ちません。手足の末端の冷えやしもやけにも効果をみています。

 現代医学の不妊治療で、無理やり排卵をさせてもうまくいかないケースがみられます。漢方の知恵で陰血を補い、卵巣が卵に力を与えるエネルギーや、子宮内膜の準備を充分に整えるエネルギーの元を助ける必要があると思います。

セリ科当帰の根。漢文の読み方で「当(まさ)に帰るべし」とあります。女性の体が本来ある健康な状態にもどって、幸せを手に入れるためのアイテムである。

■→草冠に弓



猪苓


 梅雨が明けると、本格的な夏になります。山のお寺でのんびりお昼寝ができるといいのですが、都会の勤め先の強すぎる冷房で体調を崩すケースも多いと思います。不快症状のひとつとして膀胱炎があります。特に女性の場合、専門医に受診するのに勇気が必要ですし、くりかえしかかることもあって、ゆううつな病気の一つです。

 患者さんの中には、膀胱炎といえば猪苓湯と決め付けて、ドラッグストアーなどで買って飲んでいる人も多いようです。プライマリーケアとしては仕方ないことかもしれませんが、思ったほど効果がでないこともあるのではないかと思います。

 それは、漢方が「病気」を治すのではなくて「病人の体質」を治す方法だからです。急性期で痛みや熱があって舌の先が紅く舌の奥のほうにやや黄色い苔がついている場合には、「竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)」を勧めます。一方、体液が消耗して、痛みや熱はまだあるものの残尿感や喉の渇きが強く、舌全体の色が紅く苔がはがれている場合に「猪苓湯」を勧めます。更に、慢性化して繰り返している場合で、舌の引き締まり方が足りない場合には、「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」「六味丸(ろくみがん)」を合わせて服用すると、免疫力が高まり予防として効果が期待できます。間質性膀胱炎の痛みと頻尿に「玉屏風散(ぎょくへいふうさん)」が効果をあげている事例も経験しています。

 猪苓は体のむくみをとってくれる薬草で、尿量を増やすほか淡いオリモノや下痢も治す働きがあります。同じサルノコシカケ科のマツホドの菌核を「茯苓(ぶくりょう)」と言いますが、むくみをとる作用は猪苓より弱いです。そのかわり、胃腸を丈夫にして、不眠・不安・動悸・驚きやすいなどの症状の緩和の作用を持っています。

 最近の研究によると、「茯苓」ばかりでなく「猪苓」にもアガリクスや霊芝にも劣らない抗がん作用があることがわかりました。

サルノコシカケ科チョレイマイタケの菌核。ブナ林の奥、落ち葉が厚く積もった20センチほど下に生える。日本では採取が困難なきのこ。



桂枝


 日本で女性によく勧められる漢方薬の御三家といえば「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」「加味逍遥散(かみしょうようさん)」「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」です。保険の上では、23・24・25と番号が並んでいるので、勉強会で「ヒエヒエタイプ」「イライラタイプ」「ガッチリタイプ」などと指導されているようです。

 しかし、私は中国で「桂枝茯苓丸」そのものを使う漢方の医師を見たことがありません。古典としては必ず勉強しますが、「古血」をとる処方としては使われている薬草が少なすぎると考えられています。現在では、血行を改善する薬草を豊富に含む「■帰調血飲(きゅうきちょうけついん)」などが、子宮筋腫や子宮内膜症の古血をとる処方としてよく使われています。

 日本では「桂皮(けいひ)」と一口に呼んでいますが、中国では「桂枝」「肉桂(にっけい)」と区別します。桂枝は文字通り若い枝の部分で、漢方で言う「肺・脾」に作用します。急性の体の表面や末端の冷えに対して使われたり胃腸の冷えから来るむくみやだるさによく使われます。一方、肉桂は幹の皮を指します。漢方で言う「肝・腎・心」に作用して体の芯やの冷えをとってくれます。慢性の低体温や頻尿・下痢に良く使われます。

 中国の西安や北京では大量に使われる肉桂ですが、南京や上海では少量しか使われていません。「因地制宜(いんちせいぎ)」といって、その土地の気候風土に合わせて処方構成を考えなければならないと言う原則があるからです。クーラーによる冷えに対する処方に「桂枝湯(けいしとう)」「黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)」などがあります。しかし、地球の温暖化が叫ばれている現在、人間のわがままから生じた病気のために、薬草の命をいただいていいものかと思うのは私一人でしょうか?

クスノキ科ケイの枝・樹皮。シナモンはセイロンケイヒ。ベトナム地方原産だが、日本で栽培されているニッキの最高級は根の皮。

■→草冠に弓



鹿茸


 高速道路のサービスエリアで、眠気覚ましのドリンクを探しました。それぞれ趣向を凝らしたものが並んでいました。コーヒーばかりかニンニク入りから、おなじみ「高麗人参」「鹿茸」入りなど、見ているだけで眠気が覚めてしまいそうでした。

 鹿茸というと、強精剤を思い出す人も多いと思います。奈良の春日大社にいる鹿たちを見ても、馬やメスの鹿には無い角(つの)が、細い首の先の頭に美しく飾られています。生え始めのわずか10cmの軟らかなキノコ(=茸)が、何年もしないうちに他のオスと突き合わせる立派な武器になります。昔の人はそれを見て、なにか特別な力を感じたのでしょう。

 実際に現代の私たちが、鹿の肉を食べてもその晩は身体が火照って、寝苦しい感じを体験することができます。昔の人が豚肉は「涼」といって、温める働きがないと文献に残しています。すべての食べ物に「熱・温・平・涼・寒」などというように、「性」があると感じ、それを伝えてきました。

 漢方に使う生薬(植物・動物・鉱物など)のなかでもっとも体力・気力・精力をつけて温めるのは、この鹿茸です。中国の漢方市場には、大きな角が飾ってあって目立ちます。現地の庶民には、堅くなる前の軟らかい鹿茸のスライスなどは高嶺の花で、「鹿角膠(ろっかくきょう)」といって、オス鹿の堅くなった角を煮詰めてとった膠(にかわ)が比較的安く用意されています。

 中国において、婦人科の分野では、性腺刺激ホルモンの分泌を助けるのではないかと、不妊治療に使われています。老年科では、視床下部・脳下垂体の働きを助けるのではないかと、足腰の疲ればかりか物忘れや根気の無さにも使われています。

最近は、日本でもがん治療の場面で、手術や放射線・抗がん剤の治療による副作用を防ぐ目的で見直され、「参茸丸」「参茸補血丸」という形で正式輸入されています。

シカ科マンシュウジカなどのオスのまだ角化していない幼角。鹿茸血片を焼酎に漬けてお湯割りで飲むとよい。贋物に注意が必要だ。



蓮子


 蓮の花などというと、仏壇に飾ってある金色の造花を思い出す人が多いかと思いますが、人から聞いて、去年埼玉県の行田の「古代蓮の里」へ夜明けを待って行ったことを思い出します。ふだん深い信仰心など持っていないのに、蓮に囲まれて木道を散策していると、人一倍煩悩の深い自分を、良寛さまや親鸞聖人のように往生させていただきたいとおすがりする気持ちになってしまいます。

 蓮は、各部分によって薬効の違う食べ物として、中国では使われてきました。蓮の葉は、暑がりの太った人に勧められます。体が涼しくなり小水の量が増えて痩身に働きます。蓮のおしべの部分は、焦りをとって頻尿や尿漏れに使われてきました。蓮の果托(かたく)は、温めて古血をとりながら下血・血尿・不正性器出血に使われてきました。特に寡少価値があるのが、蓮心と呼ばれる蓮の実の中にある緑の棒状の胚芽です。急激なストレスで上半身がワナワナとした焦りが収まらないときに使うと、落ち着かせてくれるとされています。

 蓮の実そのものは、蓮子と呼んでいます。もって生まれた緊張しやすい性格で下痢や軟便で困っている人。不安・動悸・焦燥などから、寝つきが悪い・眠りが浅い・夢が多い・物忘れが激しいなどで漢方相談においでになる方は年々増えています。過敏性腸症候群の傾向のある不登校・更年期障害症・自律神経失調症・不安神経症と診断を受けて、漢方治療も併用して症状の緩和が見られた事例は多いです。

帰脾湯と並んで清心蓮子飲は、細菌感染からではなくて、心理的要素の多いと見られる頻尿に勧められます。日本人の過剰な几帳面さの裏側で、焦りのために多くの繊細な気持ちの持ち主が傷ついているように思えてなりません。

スイレン科ハスの種。別名、蓮肉。行田にはこの甘納豆がある。同じスイレン科のオニバスの種は■実(けんじつ)で薄い帯下に用いられる。

■→草冠に欠



艾葉


 鍼灸の治療院に行ってお灸の香りを嗅いだだけで治りそうな気がしてしまうのは、私だけでしょうか?最近は手軽にできて痕がつきにくい点灸や、鉛筆の親分のように固めた温灸などがあります。更には、味噌やにんにくや枇杷の葉などさまざまなものを活用して効果を引き出しているようです。「足三里に灸をせぬものと、旅をするべからず。」と芭蕉が言っていますが、お灸に限らず薬湯などにも使えます。

 大和の言葉ではよもぎと言うそうです。春になるとよく萌えるように芽を出すので「善萌草」と当てたようです。モグサは燃える草の意味で、梅雨の晴れ間によく干したヨモギの葉を杵(きね)で搗(つ)いて、繊維を除いた葉の裏毛を集めたものです。昔の中国から伝わった言葉が「艾葉」で、病を「乂」(おさ)める草なのだそうです。

 せんじ薬では「気」の流れの道(経絡)を暖める力があり、冷たい湿気が下腹部に停滞して災いしているのを治してくれます。具体的には、下腹部の冷えからくる月経不順・月経困難などや不正性器出血や月経過多にお勧めできます。同じ下腹部を暖める肉桂は、止血の働きや流産防止の働きが無いので、必要なときは艾葉を使うべきだと思います。

 いずれにしましても、冬でも夏でもおへそや腰を出して、健康よりファッションを優先するようなことをしたあとで後悔しても、始まりません。また、夏でも冬でも氷の浮かんだ甘い飲み物をストローで吸い込むのも、漢方で言う脾腎(胃腸や生殖器の機能)を弱める原因になると思っています。

 「■帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)」は、中国では、冷えをともなう不正性器出血や月経過多に標準処方として使われています。日本では「痔出血」という病名でしか保険適応になっていません。漢方に理解のある家庭医に相談すると良いと思います。

 キク科ヨモギの若い葉や茎。草もちの材料でモチグサともいう。煎じて飲んでも、浴剤・灸として使っても、温めて古血をとるとされている。

■→草冠に弓



知母


 現代のストレス社会では、焦燥感から「のぼせ」「イライラ」「手足に汗をかく」「ドキドキする」などという症状で困っている人が多いように見受けられます。基本的には、日本のように焦って仕事をしたからといって、世界の他の国の人よりわずかな「モノ」を手に入れることが出来ますが、その代わりに「忙しい」字の如く「こころとかけがえのない自然を失ってしまう」心配があります。

 中国にこんな話があります。薬草取りのおばあさんがいました。貧しい人たちにただで薬草を分けてあげていたので、いつも、貧乏でした。跡継ぎを探しましたが、役人は上司へ取り入る道具として、商人は金儲けの道具として薬草を考えているのがわかったので、跡継ぎにしませんでした。おばあさんがみちに倒れると、貧しいきこりの夫婦が助けて親のように尽くしました。おばあさんはたくさんの薬草の使い方を教えましたが、そのはじめがこの薬草でした。「母親」のようなやさしい気持ちを「知り」病人に接することを忘れない、そういう意味をこめて、知母と名前をつけました。

 中国漢方では、暑がりにも実と虚があります。「実」は、風邪をひいたり熱を発する邪気があって、舌の大きさは普通で舌の先だけが赤みが強かったり奥に黄色い苔が付いていることがあります。「虚」は、長年の精神や肉体の疲労で消耗して、舌の大きさが小さく表面が乾いていて時にはひび割れているときもあります。

 呼吸器では、口やのどの渇きや声枯れや乾いた治りにくい咳。消化器では胃のチリチリする焼ける感じ・便秘。自律神経系では、不眠・焦燥に勧められます。

 中国の「知柏地黄丸(ちばくじおうがん)」「瀉火補腎丸(しゃかほじんがん)」という名前で輸入されています。

ユリ科ハナスゲの根茎。同じイライラでも、実の場合は石膏を使う。より、効果を出すために飽和食塩水に浸してから炒る方法がとられる。



山茱萸


 中国で一日の研修が終わると、時には教授がラーメン屋に連れて行ってくれるときもありました。塩と胡椒(こしょう)の効いたそばのようなラーメンを食べると、とたんに私は汗をびっしょりかきました。すると先生は「井上は虚だ。食べ終わったらレンゲに一杯の酢を飲め。酸味のものは収斂(しゅうれん)して、汗と共に気が漏れないようにするから・・」と言われました。

 中国漢方では、汗をかき過ぎると元気の基のエネルギーが消耗すると考えています。更に、外界の温度などの変化に適応する能力が弱く、体調を崩しやすかったり、皮膚や粘膜の抵抗力が弱い状態と考えています。

 疲れやすい・息切れがする・汗をかきやすい・下痢を繰り返す・小便が近いなどの症状があると、栄養をつけて治そうとしてごちそうを食べるかもしれません。滋養強壮の薬を買い求めるひとも多いかと思われます。

 漢方では、そういった症状があるときには、固渋薬とよばれる薬草を加えることが多く見られます。たとえば、樽に水を入れようとしても、下の栓が開いていたり、組んである板が緩んでいたら、せっかく入れた水は漏れて出て行ってしまいます。固渋薬は、下の栓を閉めてくれたり、板を締めてくれたりする働きがあります。

 さらに、生活習慣病で血糖値が高い場合などは、たくさん食べてはいけないのと同じように滋養強壮だけの薬草を集めたような薬は飲むべきではありません。森のある山に雨が降ると山は潤いますが、はげ山に雨が降ると山崩れが起きてしまいます。良い食べ物や良い薬があるから摂るのではありません。個人の体質に必要かどうかが重要なのだと思います。

 山茱萸は固渋薬の代表として、腰や膝のだるさや頭の空虚感に使われます。そのほか、頻尿・尿失禁・早漏・月経過多・オリモノ・多汗に他の薬草と組み合わせて効果をあらわします。

ミズキ科のサンシュユの成熟した果肉。八味地黄丸などの「肝腎」を補う処方には必ず加えられている。急性病の時には一般に休むべきである。


続きを読む>>

過去の掲載文を読む

1〜20>21〜40>41〜60>61〜80>81〜100>101〜120>121〜140