上毛新聞に連載している健康情報をメールマガジンにてお届けします。希望者はメールアドレスをご登録下さい。

■メールマガジン・アドレス登録
メールアドレス(半角):
■メールマガジン・アドレス削除
メールアドレス(半角):


辛夷


 今年のスギ花粉症(アレルギー性鼻炎・眼炎・皮膚炎)の猛威はたいへんなものでした。ここのところ、ヒノキやイネ科に反応がはじまってしまい、いつ終わるとも知れない症状にうんざりしている患者さんも多いかと思います。

 そして、かつてないこの激しい症状の予防と緩和に、「衛益顆粒(えいえきかりゅう)=玉屏風散(ぎょくへいふうさん)」が、非常に効果をあげたケースを経験しました。さらに「荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)」でもこの激しい炎症の緩和に効果をあげたケースを数多くみました。前者は、「固表(こひょう)」=免疫の安定に働き、後者は「清熱解毒・●風排膿」=消炎・解熱に働いたのではないかと考えられます。

 以前、お伝えしましたように、日本では、「小青龍湯(しょうせいりゅうとう)」が第一選択として使われてきました。しかし、中国の理論と経験では、この処方は「風寒束表(ふうかんそくひょう)」といって、飲食の不摂生によって体表近くに水のよどみがあり、そこに外からの冷えの邪気が働きかけて、透明の鼻水やくしゃみ・唾のような痰を伴った咳などの症状が出た場合の症状の緩和に用いられる、効き目の鋭い薬です。花粉症のような症状には適応ではないと思います。

 辛夷は、いわゆる蓄膿症(副鼻腔炎)に勧められる薬草です。膿を持った炎症に伴う鼻詰まりや頭重や集中力の低下に効果が認められています。

 保険範囲では「葛根湯加川■辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)」「辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)」「エンビ」に、保険外では「鼻淵丸(びえんがん)」に含まれています。始めのものは、小青龍湯の仲間で「風寒」に使い、他のものは荊芥連翹湯の仲間で「風熱」に使うので、同じ鼻づまりでも区別しなければならないのは言うまでもありません。

モクレン科ハクモクレンなどの花蕾。白▲(びゃくし)=セリ科ヨロイグサの根と組み合わせて、前頭部・頬部の重苦しさや痛みをとる。

作字(日本語の標準パッチに入っていない漢字です。)

●→示+去
■→草冠に弓
▲→草冠に止



閑話休題


がんの患者さんが増えています。世界の中でも日本の増加率は目を見張るものがあり、単に長生きをするようになったからとか、健康診断がゆきとどいて発見が早くなったからという言葉が説得力を失ってきました。若い乳がん患者さんが特に目立っているようです。発生率の上昇の原因と思われる最大要因は食生活の変化や環境汚染やストレスの増大ではないかとささやかれています。

 がんの患者さんがおいでになると、その患者さんの漢方的な体質=証について説明します。過去がどうあれ、未来がどうなろうと、今の戦況についてまずは知ってからどんな戦術があるかを提案します。もちろん、生活習慣(日本の伝統食・早寝早起き・気功など)についても、漢方的な方向から提案します。患者同士の交流の促進などもお勧めします。

 ところで、10年以上前からお近づきにさせていただいている帯津良一医師(現帯津三敬病院名誉院長)から何度もお話を伺っていくうちに、さらに深いところでの気付きをいただきました。それは、「死生観を持つ」ということです。人が必ずいつかは死ぬものであることを受け入れること。死を忌み嫌い死から目をそむけ、生にこだわりしがみつくという対立の構造から抜け出すこと。先生の著書の「ガンに勝った人たちの死生観」にある、生死を貫きこころをときめかせる「養生」という考え方を持つことなど数えたら切りがありません。

 5月29日に前橋のテルサに帯津良一医師と笑福亭小松師匠を迎えて、講演会を開きます。帯津先生には「病気は自分で治す・大自然に癒される」と題してお話を伺います。大きな内モンゴルの大草原で寝転んで青空を見ていると、宇宙から地球を見たときと同じだろうと思われる開放感と癒しの感覚に包まれるそうです。そこから死生観に基づいた養生についてのお話が聞けると期待しています。笑福亭小松師匠には、「生きる命の輝き」という題でお話を伺います。私と同じ年の師匠は進行性胃がんを経験しました。「日本列島徒歩縦断」を通して、腹のくくりかたやこの一瞬を歓びと感謝で生きる生き方についてのお話が聞けると期待しています。すでにがんにかかっている人もこれからかかるかもしれない人もぜひお話を聞いてもらいたいと願っています。



防己


 五月の連休も過ぎると、だんだん薄着になって女性ばかりか男性も、他人の視線が気になる季節になります。美容上の問題ばかりか、やはり高脂血症から脂肪肝や動脈硬化、そして心臓・脳・腎臓などに障害がでたり、二型の糖尿病なども心配になります。肥り過ぎの原因は、基本的には食べ過ぎと運動不足です。

 ところが、女性週刊誌やインターネットでみると、「手軽にやせる」という情報が氾濫しています。しかし、それらはたいてい個人の体質は関係なく下剤を含ませてやせさせるものが多いように思われます。

 漢方では「太っている人は、虚の体質だ」とよく言います。やせている人が階段をスイスイ登っていくのに、太っている人はハーハーと息を切らせて登っていきます。脈拍も急に上昇して回復まで時間がかかり、汗をかいて、よく風邪をひきます。動くのがおっくうですぐに横になりたがります。「虚の体質には、補の治療」が原則です。瀉する(邪気を取り除く)だけでは、病気を呼び込むことになります。

 防己は、もともと、下腹や腰周り・ふとももや膝などによどんでいる不必要な水分を取り除き、膝関節などの痛みや動かしにくさの改善に用いられる薬草です。膝に水がたまって注射でしょっちゅう抜いてもらわなければならない場合でも、続けていくうちに抜く回数が減るケースをよくみます。更には婦人科のがんなどの手術で、脚全体が石のように硬く浮腫んでしまった場合に、硬さがやわらぎ痛みが減るケースもみられます。

 黄耆(おうぎ)と合わせた防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)は、体力をつけながらやせられる処方です。家庭医やかかりつけの薬剤師に相談すれば、気軽に飲める漢方薬です。

 やせたいなら「一口五十回」牛のように噛むこと。これは筆者がお勧めする究極のダイエットです。

ツヅラフジ科の植物の根。へそから下のむくみばかりでなく、なかなか治りにくいジクジクした皮膚炎にも効果があるとされている。



桃仁


 日本の昔話には、いろいろあります。「かくれ蓑」「てんぐの羽うちわ」などにわくわくしたものです。「かぐや姫」などは、宇宙人だという説もあるのだそうです。「桃太郎」も実は桃から赤ちゃんが生まれたのでないのだそうです。不思議な桃を食べたおばあさんが若返り、おじいさんにも食べさせるとやはり若返り、その結果赤ちゃんが生まれたというのがもとの説だと聞きました。昔はおおらかなものです。

 中国でも、桃は特別の意味を持つ植物です。ジョンレノンの「イマジン」という曲がありますが、国境も無い・争いも無い理想郷を「桃源郷」といっていました。お年寄りの誕生日には、桃の形をしたお菓子をプレゼントするのが慣わしのようです。

 民間療法で、桃の葉を煎じて風呂に入れると「あせも」によいとされています。肌のかさつきにも勧められます。

 漢方では、主に「桃仁」といって、種の中身を使います。「桃核承気湯(とうかくじょうきとう)」「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」が日本では、子宮筋腫や子宮内膜症に用いる有名な処方ですが、中国ではほとんど使われることがありません。「宮外孕方(きゅうがいようほう)」「●帰調血飲(きゅきちょうけついん)」が一般的です。

 「ウコン」「ガジュツ」が、流行っています。同じショウガ科の植物の根ですが、辛い味で熱して気や血の流れを邪魔しているものを壊し巡らせるという激しい作用を持っています。漢方では、この強い作用に耐えられるだけの体力がないと処方してはいけない薬として扱われています。むしろ、身体をエアコンで冷やさないようにしたり、冷蔵庫から出したばかりの冷たい飲み物を一気に飲んだりしないようにするほうがずっと大切ですし、桃仁のような緩和な薬草を用いるべきだと思います。

 バラ科モモの成熟種子。気の流れの滞りを巡らせ、月経痛・経血の中に塊りがある・便秘するなどに効果がある。妊婦には禁忌である。

●・・・・草冠に弓



同病異治・異病同治


 中国漢方には「同病異治・異病同治」という言葉があります。現代医学では、検査結果が出て病名が決定すれば、標準の第一選択の治療法はひとつに決まります。ところが、漢方では、ひとつの病気でも体質=証(しょう)によって、まったく異なる治療法を選ばなければなりません。逆に言えば、患者さんの中に隠れて正体を現さない病気の根っこを上手に見抜ける直感力を磨くことがうまい先生になる条件と言えるでしょう。

 前回、便秘に強い下剤ばかり使うと、「陰液」が消耗すると書きました。潤いが足りなくなると目尻にしわが増えます。眉間の縦じわが出ないようにすると、便秘が治るお話をしましょう。

 「思えば、すなわち気が結する」という言葉があり、一日パソコンに向かって頭を使う仕事をすると、気の流れが悪くなり便秘になります。お姑さん・お嫁さんが相互にストレスを受けて、イライラしたり落ち込んだりしても、気が上に昇ったり「鬱結」して便秘を引き起こすことになります。

 気の流れを整える働きのある枳実を使うと、ストレスによる気分の不調が解消されて眉間の縦じわがうすくなるばかりか、下剤の量も少なくて済みます。「潤腸湯」は、前回の麻子仁丸に枳実を加えた処方で、ストレスによる便秘にお勧めできます。

 ところが、この枳実は、下痢にも使われます。学校や職場でいやなことがあると、家を出ようとするとおなかが痛くなって下痢をすることがよくあります。こんなことではいけないと、自分を責めれば責めるほどトイレから出られなくなります。このようなときには中国では(枳実の代わりに陳皮が使われていますが)「痛瀉要方(つうしゃようほう)」を使います。日本には「開気丸」という名前で輸入され、効果を上げています。異病同治です。

ミカン科ダイダイ・イチャンレモン・カラタチなどの幼果を枳実と言う。最近は作用が緩和な成熟果実の枳穀が好まれて使われている。



閑話休題


 中国の昆明・大理へ行ってきました。桂林や石林の景色はまったりとしていて、水墨画の中にいるようでした。中国へ行くたびに、日本にはない広大な自然に驚かされます。北京や上海・西安の古い街並みや裏通りも好きです。夕暮れ時、学校帰りの子供たちが遊んでいたり、市場で品定めをしている人々の姿も、旅情をかきたててくれます。

 西安から上海への24時間以上かかる寝台列車から見る景色は、草も樹もなかなか生えない黄色い大地でした。南京の長江に架かる大きな橋の下では、鳴門海峡に勝るとも劣らない黄色い水が渦巻いていました。

 西安から敦煌への飛行機からの景色は、延々と続く岩の砂漠でした。仏像を彫るために自分の足で歩いた人たちのこころを支えたものは何だったのでしょうか?

 万里の長城や故宮・街を囲む城壁の大きさには、ため息をつくばかりです。その昔、みぞれの中、炭を売りにやってきたおじいさんも、この拒絶する城壁の前でため息をついたのかと思ってしまいます。

 中国の漢方の研究をしていくうちに、これは自然との闘いなんだと気が付きました。これだけの荒々しい自然の中では自然を克服する努力をしなけらばならない。熱が出たらそれを下げる。下痢をしたらそれを止める。

 一方、日本は緑の山が続いています。中国から入ってきた漢方以前の、日本独自の伝統医療はむしろ、自然との調和を目指しているように思います。下痢をしたり熱が出るのは身体が治ろうとする反応なのだから、それを邪魔しないの良いといいます。

 10年以上前から、中国の砂漠が一年で神奈川県と同じ面積広がっていると言われ、現在もいっこうに勢いが弱まる気配をみせていません。

 人間の快適な生活のために自然を征服するのか、それとも、自然の許してくれる範囲で生活するのか、人間が躊躇しているうちに自然の方から先に結論が出される時期を迎えつつある気がします。地球温暖化で食糧が不足したり薬草が枯れたりしたら、漢方薬の知識はなんの役にも立たないのですから。



冬虫夏草(とうちゅうかそう)


 「冬虫夏草」なかなか読めないこの薬草は、「とうちゅうかそう」と読みます。また、「虫」とあるのとその奇妙な姿に芋虫をほしたものではないかと、聞かれる事があります。使うのは虫ではなく傘のないきのこの軸の部分です。特別な訓練を積むと、枯れ草や土くれから2ミリくらい顔を出しているこのきのこを見つけることができます。掘り出してみるといろいろな虫の中から生えています。そこで、昔の人は、きっと、冬の間は虫だったのに、夏になるときのこになる不思議なきのこという意味で、冬虫夏草と名づけたのだろうと想像できます。

 以前、中国の陸上界で驚くパワーを見せつけた「馬軍団」の公式スープに含まれている強壮漢方薬として有名になりました。その後は、抗がん作用があるとされて、さまざまな健康食品に取り入れられたのをご記憶の方も多いと思います。中には男性の強精に効果があるように書かれているものまでありました。

 冬虫夏草は、飲んですぐ結果が出るものではありません。また、これだけで結果が出せるわけでもありません。他の漢方薬と合わせて、ジワリジワリと効果を高めてくれるものです。

 中国漢方では、「息を吐くのは肺の力、息を吸うのは腎の力」という考え方があります。慢性の喘息や気管支炎、肺がんの患者さんは臍下丹田に気を引き込む力が足りないため、急性の患者さんと違い、吐くことはできても吸うことができなくて大変苦しいものです。気管支拡張剤や副腎皮質ホルモンなどでうまくコントロールできない、のどや口の乾く息苦しさを訴えるケースをしばしば経験します。

 「双料参茸丸」は日本に唯一輸入が許可されている冬虫夏草が含まれている医薬品です。人参・黄耆や鹿茸(鹿の幼角)・蛤?(雌雄一対のオオヤモリの尻尾)などの効果を協調させ高める処方構成になっています。吸う力の弱い患者さんにお勧めします。

中国の西北部に当たる青海省で採れるものが最上級とされ、昔から不老長寿・滋養強壮の薬として、赤い糸で縛られて珍重されてきた。



龍胆(りゅうたん)


 「宗論は、どちらが負けても 釈迦の恥」という川柳があります。江戸時代から落語にもよく登場し「どちらが勝っても」とも言うようです。同じようなことが漢方の世界でもよく見られます。一人の患者さんの体質の見立ても先生によっていく通りかあり、その体質を改善する方法も更にいく通りもあるのです。

 さらに困ったことに、同じ名前の処方でも、書いたお医者さんによって、内容が異なることもあります。「清暑益気湯(せいしょえっきとう)」もその一例で、「医学六要」では、9種類の一般的な薬草ですが、「脾胃論」では15種類に増えます。「温熱経緯」では、スイカの皮やハスの葉柄など10種類になります。それぞれ暑さ負けの状態によって使い分けます。

 「龍胆潟肝湯(りゅうたんしゃかんとう)」「一貫堂」に書かれている処方は、車前子(オオバコの種)連翹(れんぎょうの果実)が含まれるので、泌尿器・生殖器などの炎症に応用されます。「医方集解」には、薄荷や防風が除かれて柴胡が含まれているので、いらいら・頭痛・めまいなどに応用されます。「校注婦人良法」では、「医方集解」の中から柴胡が除かれています。日本で一般的に使用されているものはこの「校注婦人良法」です。

 中国の漢方の病院で、臨床に立ち会わせてもらった時に、気が付いたことがあります。生殖器の不快感をはっきり訴えることです。陰嚢に汗をかいてべたべたして困るとか、黄色くて腐ったような匂いのおりものが出るとか陰部や肛門がかゆくて困るとか、あっさり言います。こちらが外国人とわかると、「私の身体を教材にさせてあげるからよく勉強して行け」と積極的に説明してくれました。脂の多い食べ物やニンニクなどの香辛料の摂りすぎで日本でも増える症状です。「龍胆」でなくては治せない熱を持った湿気です。

リンドウ科リンドウの根。排尿痛・排尿困難・陰部の掻痒の他に、目の充血・目の痛み・耳の腫れ・難聴・不眠にも勧められる。



黄連(おうれん)


 相談においでになった患者さんが漢方薬を飲んでいるというので聞いてみると、薬の選び方に不安が生じることがあります。現代医学の病名で漢方薬を選んでしまうケースが多いように見受けられるのです。肝臓病だから9番、高血圧だから47番などと番号で対応しているケースさえみられます。これでは、患者さんが飲む薬を無駄に増やしているようなもので、本当に漢方の効果を出すことにはつながっていないと言わざるを得ません。

 それぞれの患者さんが持つ体質や刻一刻変化していく病状を「漢方の見方で」分析して薬を選ばなければ、漢方にしかできない力が出せないのではないでしょうか?

 口の中の粘膜がただれて・口の中が乾き・口臭がして・便秘・手足のほてりに困って、漢方薬を半年飲んでも治らない患者さんが、先日相談においでになりました。病院ではうがい薬と下剤が処方され、漢方薬で「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」が処方されていました。

 たしかに、口内炎の第一選択は「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」です。舌の先端だけが紅くて黄色の苔が奥にある場合、「実熱」といって黄連解毒湯の適応です。ところが、舌の表面全体が赤くて乾いていて、漢方で言う「苔剥」場合、同じ症状でも「虚熱」の場合もあります。更年期などで神経の使いすぎで焦燥感の強い場合「知柏地黄丸(ちばくじおうがん)」「滋陰降火湯(じいんこうかとう)」を使わなければなりません。黄連解毒湯のような「実熱」をとる処方を漫然と「虚熱」のタイプに患者さんが続けて飲むのは、効果がないばかりか、身体の衰弱を起こしかねません。

 漢方薬を選ぶ時に現代医学の病名を根拠にしたのでは、墨絵の材料を使って油絵の理論で絵を描こうとしているようなものです。

キンポウゲ科オウレンの根。強い苦みで胃腸などの熱を取り、湿気を取り解毒する。イライラ・不眠・目の充血・下痢などにも応用される。



神麹(しんきく)


 中国に研修に初めて行った時に、「神麹(しんきく)」と言われても何のことかわかりませんでした。日本では、漢方の薬物学は薬草が中心で、こういった手を加えたものは一般的ではなかったのです。

 どのように手を加えているかと言うと、小麦の粉と麸(ふすま)に特別の薬汁と小豆と杏の種の粉をまぶして発酵させて固めるのです。その形状は確かに、手作りの味噌を作る時に、大豆をつぶして練り合わせる麹(こうじ)に似ています。話は脱線しますが、自宅で作る手作りの味噌はほんとに美味しいですね。

 漢方の国の中国人でも、煎じた漢方薬は苦くて飲みにくいし、場合によっては胃にもたれたりする場合もあるとのことです。日本でも、八味地黄丸(はちみじおうがん)牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)などで、胃がもたれるという副作用で飲むのを中止せざるを得ないケースもみられます。

 また、胃腸の働きが弱くてさまざまな薬を試みたけれど、胃腸を丈夫にする前に胃腸の薬そのものを胃が受け付けられないというケースもみられます。そういった場合に、この神麹や大麦の芽の「麦芽」や「山●子(さんざし)」を合わせた「炒三仙(しょうさんせん)」と呼ぶ処方を組み合わせるやり方で切り抜ける方法もあります。

 腹部のがんの術後に何度か腸閉塞を経験して、下痢と便秘と嘔吐を繰り返して体重が減る一方の患者さんがいました。がんで命を直接取られることは無くても、そのままでは日常生活に戻ることができないばかりか命の危険さえ出てきました。出来あいの処方では無理と判断して、「炒三仙」を基本とする煎じ薬をお勧めしました。

効を奏して下痢便秘が解消して、体力の回復が見られました。まさに神の麹でした。「炒三仙」「晶三仙」として、日本に輸入されています。

● ・・木へん+査

特に穀物の食べ過ぎによる腹部の張り・くさいにおいのゲップ・腹痛・下痢の症状を緩和する。略して「神曲」「六曲」などとも言う。



何首烏


 日本が世界一の長寿国と言われていますが、見渡してみると手放しで喜んでもいられない気がします。若い働き盛りの人たちが、仕事や家事に疲れてしまって体調を崩しているケースをよく耳にします。高齢になってくると、病の床で長生きさせられたくないと「ピンピンコロリ」といって、気を使っています。

 日本で滋養強壮の漢方薬というと、高価なものと思い込まれています。ところが、何首烏は枸杞子と並んで、中国では庶民的な不老長寿の薬草として人気があります。高脂血症・動脈硬化症の予防の他、心臓の機能を高め、冠状動脈の血流量を増やす作用など、血液をサラサラにして若さを保ち老化を防ぐ注目すべき効果が報告されています。

 何首烏は、つるどくだみの根ですが、首とかカラスとかちょっとイメージがよくありません。中国でもカラスは嫌がられる鳥ですが、この名前の由来にはこんな話があります。むかし、何さんという30才を過ぎたばかりの男がいました。不摂生をしたせいか、疲れやすく・肌はかさかさ・脚はヨボヨボ・腰はフラフラ・膝はガクガク・目はショボショボ・髪の毛はスカスカ、生きる気力もありません。こんなことでは世に名を残せないと、飢え死にをしようと山に入って行きました。ところが、そうは言ってもおなかがすいて辛くなった何さん。周りを見回すとどくだみに似た葉を持つつるが木に巻きついているので、根を食べて飢えをしのいでいました。しばらくすると、気力が湧いて来て足腰もしっかりしてきました。村へ帰ると人々が驚いて言いました。「何さんの首から上がカラスの羽のようにつやつやになった」それから、その薬草を忘れないようにこの名前をつけたとのことです。

 日本では「首烏延寿片」として輸入されています。穏やかな効き目の便秘薬として使われていますが、実は長く安心して飲める滋養薬なのです。

タデ科ツルドクダミの塊根。滋養強壮の他、病後の体力回復にも薦められる。最近、発がん抑制効果も確認されている。



菊花


 現代医学の診察を受けても何の問題もないのに、様々な不定愁訴で苦しんでいる患者さんは後を絶ちません。統合医療という立場で、それらに立ち向かっている医師もいます。ハーブの香りを利用して癒しを求めるアロマテラピーもその一つです。目の感覚よりも耳の感覚、耳の感覚よりも鼻の感覚の方が原始的なだけ体の奥まで影響を与えられると言います。

 漢方薬を煎じている臭いは、都会の香水の匂いからすれば、野蛮な泥臭いものかもしれません。しかし、あの臭いと口が曲がりそうな味は、美味しいお菓子や料理で忘れかけている動物的な自己回復力を奮い立たせてくれるのに充分な刺激があります。

 薄荷・檀香・菖蒲などと並んで、花にも香りの強いものがあります。紅花と菊花です。花は、植物の一番上にありますから、首から上に効果があるといいます。菊花は主にのぼせ・めまい・ふらつき、頭痛・頭が張る感じに勧められます。血圧計ができる前は高血圧という概念はありませんでしたから、その不快症状の軽減に役立っていました。さらに、目の充血や疲れにも効果があり、花粉のアレルギーによる目のかゆみにも勧められます。また、風邪薬に入れたり皮膚疾患の処方に入れたりします。

 血圧はきちんとコントロールできているのに、頭がすっきりしないなどの不快症状で困っている人に、古来の方法をお教えしましょう。さらしなどで30センチ四方の袋を作って、その中に菊の開きかけた花を詰めます。毎晩、寝る時に枕の上に敷いて寝ます。朝起きたら、日陰で干します。日向に干すと香りが飛んでしまいます。干さないと虫が生えてしまいます。菊の色は白か黄色が適しています。少なくともこころが和みます。

 石油から精製したものではなく自然の中で命を謳歌しているものに、生かされている命を感じたいと思っています。

 頭張感には、「杭州の菊花」=「杭菊花」目の充血・のどや皮膚の炎症には、「ホソバアブラギク」のつぼみ=「野菊花」を用いる。



桑●蛸(そうひょうしょう)


 以前、「漢方薬局」というと、暗くて鹿の角とか蛇とか得体の知れないものが飾ってあって、足を踏み入れにくいという印象がありました。実際、漢方薬に使われるものには、草の根や木の皮の他に、動物や昆虫に由来するものもあります。昆虫では蚕が関節の痛みを和らげますし、蟻は精子の数や運動率をあげて男性不妊に勧められています。

 カマキリの卵鞘を乾燥させたものは、「桑●蛸(そうひょうしょう)」といって、中国漢方では固渋薬に分類されています。頻尿や夜間頻尿・尿失禁に用いられています。

 成人の頻尿・尿もれに中国では「山茱萸(さんしゅゆ)」「覆盆子(ふくぼんし)」という薬草と合わせて、「固ほう湯(こほうとう)」という処方で煎じて用いられています。トイレに行きたくなると我慢ができなくてヒヤヒヤする人にも用いられています。

 小児の夜尿症には、中国では「遠志(おんじ)」「茯神(ぶくしん)」という薬草と合わせて、「桑●蛸散」という処方で煎じて用いられています。日本では、胃腸の働きを調える「小建中湯(しょうけんちゅうとう)」が第一選択になります。

 夜尿症で思い出すことは、あるお坊さんの言葉です。「子供は今夜もまた失敗してしまったらどうしようと、親が気が付かないところで不安に思っとる。失敗してしまったときに照れて笑っても、親が切れて怒鳴ってどうする?わが身を悔やんでいる我が子にかけてやるやさしい言葉が出んようなら、親失格じゃ・・。」粘り強く子供の成長に寄り添う姿勢が必要なんだと教えられました。

 私はよく子供さんに話し掛けます。「テレビか何かで、生まれてすぐの馬の赤ちゃんが、がんばって立ち上がろうとする姿を見たことがあるかな?人間の赤ちゃんは、もっと長い時間をかけて立ち上がるんだよ。君もそうにして立ったんだよ。君が気が付かなくても、君の体の中でがんばってくれているから、安心していいんだよ」

体力不足で冷えを伴なう場合の泌尿器・生殖器の緩みを締める働きがあるので、男性の早漏、女性の白いオリモノに勧められる。

●=虫へん+票



麻黄


 22年前のことです。中国から群馬に訪れていた袁其肇先生(中国海南大学教授)に教えを受けた事があります。戦争で南方に招集されて帰ってきてからずっと呼吸困難と息切れ・黄色の粘った大量の痰が治らない患者さんを抱えて困っていた時です。もちろん、ありとあらゆる呼吸器系の病院の門を叩き、さまざまな治療を受けました。しかし、思わしい結果が得られなくて文字通り「わらにもすがる気持ちで」漢方の初心者の私に相談においでになったのです。

 「苔の状態はどうですか?」と先生から質問されましたので「黄膩(おうじ)です」と答えました。「それは、熱を伴なった痰が、肺の気が下がるのを邪魔していると考えて良さそうですね?その第一選択の処方は?」と次の質問をされました。私が立ち尽すと宿題にしてくれました。翌日「定喘湯(ていぜんとう)と思います。」という答えに、「良く勉強しましたね。」と褒めてくれました。しかし、初学者の私は思いました。「理論的にはそうかもしれないが、魔法ではないのだから効くはずがない。」

 「ぎんなん・麻黄・しその種・ふきのとう・アンズの種・桑の根の皮・コガネバナの根・カラスビシャクの根・カンゾウの根」これだけの処方です。ビワの葉を加えた記憶があります。

 ところが、一緒に研究会に参加してた内科医の協力のもと、試してみると効果は驚くものがありました。30年以上続いていた痰が2週間でみごとに消えてしまったのです。エフエドリンという現代医学の咳止めは、この麻黄から抽出されたものです。しかし、この薬草を使った別の漢方薬では、効果がなかったのです。

 その後しばらくは、咳の患者さんが漢方相談においでになると「どうしたら、あんな効果が出せるのか」苦手意識がめばえてしまったのはいうまでもありません。

マオウ科の植物の茎。発汗を目的にした場合、汗を止める成分が節に含まれているので、節を取り除く。ある種のむくみにも効果がある。



板藍根


 前回、都市生活での運動不足・食事の欧米化に伴なう栄養過多・人間関係の複雑化に伴なうストレスに合わせて地球温暖化と暖房の普及などによって、熱の症状を示す風邪が増えて来たとお伝えしました。その中で、今関心が深いのがインフルエンザだろうと思います。集団生活を送る高齢者だけでなく、抵抗力の弱い小児から受験で休めない学生までワクチンの予防接種に予約が殺到しています。一方、その副作用にも不安が隠せない状態です。

 中国の学校では、ほとんど学級閉鎖という緊急事態は発生しないと聞いています。どうもその理由は、この時期になると学校で飲まされる「板藍根(ばんらんこん)」お茶の配布にあるという説があります。

 板藍根は、アブラナ科タイセイの根です。この薬草の特徴は、現代医学の解熱鎮痛剤と抗生剤と同等の作用を持つばかりでなく、抗ウイルス作用を持つばかりか、細菌やウイルスが放出した毒素を中和し免疫力を高める作用を併せ持つ事です。もちろん、抗生剤が持つような胃腸障害・膀胱炎・膣炎などの不快な副作用もありません。さらに、扁桃腺炎・流行性耳下腺炎(オタフクカゼ)・しょう紅熱・日本脳炎・帯状疱疹・ウイルス性肝炎にも応用され、近年のサーズ(SARS)の流行時には、市民が薬屋さんに殺到したと伝えられています。

 SARSといえば、日本における中国医学の先進的な出版社に「東洋学術出版社」があります。この会社のホームページには、「速報 SARSと中医薬治療」というページがあって、日本で臨床に携わっている日本人漢方研究家、日本で臨床・研究に携わっている中国人漢方研究家、さらに現場中国で状況を目の当たりにしている日本人留学生、日本に留学経験のある日本語の堪能な中国人漢方研究家の意見を戦わせる格好の場になっています。日本の漢方がよりグローバルな発展を遂げるのを期待したいと思います。

 首から上の熱を伴なった痛みや腫れに使われる。金銀花・連翹などと併せて使用される。日本には「板藍茶」として輸入されている。



金銀花


 民間療法にはいろいろなものがあります。風邪をひいたときに熱い風呂に入って冷たい水をたくさん飲んで汗をかくと治るという人もいます。誰でもそれで治るわけでない所が民間療法です。そんな事をしたら倒れてしまう人も多いと思われます。

 中国漢方では、一口で風邪といっても、世間一般で言う「総合感冒薬」というものはありません。「喉が痛い」とか「鼻がつまる」とかの自覚症状も大切ですが、それよりも「熱感がある」かどうか「汗が出る」かどうかが「証」を判断する上で大前提になってきます。「証」とは患者さんのもともとの体質と病気の原因との戦いの様子です。「熱感があって喉が痛い」のか「寒気があって喉が痛い」のかでは、治療方法も違えば選ぶ薬も行って帰って来るほど違ってきます。そこを見誤ると、治療効果にも大きな差が出てしまいます。患者さんは体温計の数字で熱があるかどうかを伝えようとしますが、こちらは自覚症状を聞き出し患者さんの言っていることだけでなく、舌の赤味や表面の荒れ具合を総合して考えなければなりません。

 金銀花は、熱感のある症状に使う薬草です。都市生活での運動不足・食事の欧米化に伴なう栄養過多・人間関係の複雑化に伴なうストレスに合わせて地球温暖化と暖房の普及などによって、熱の症状を示す風邪が増えてきました。高い発熱・喉の腫れと痛み・鼻水や痰が黄色く粘る・尿の色が黄色い・口が渇く・舌の赤味が強く場合によっては、先に赤くイチゴの様なツブツブがある。このような場合、単純にゾクゾクの寒気の風邪に使う葛根湯ではなくて、金銀花を含んだ「銀翹解毒丸(ぎんぎょうげどくがん)」を使わないと効果は期待できません。最近の研究によって抗菌作用だけでなく、抗ウイルス作用も確認されているので、中国ではインフルエンザの治療だけでなく予防にも活用されています。また、アトピー性皮膚炎で患部に熱感がある場合にも必須の薬草です。

スイカズラのつぼみ。茎や葉は「忍冬藤(にんどうとう)」と呼び、風邪の他リウマチや関節痛で患部に熱のある場合に使われる。



黄耆


 漢方薬といって、一般の人がすぐに思い浮かべるのが「朝鮮人参」のようです。ところが、中国では漢方薬に対する人気は偏りがなく、さまざまな薬草がそれぞれの特徴にしたがって愛用されています。

 その中で効果がたいへんすぐれているにもかかわらず、日本の人に知られていない薬草に、黄耆があります。漢方で言う主に「脾」と「肺」に作用します。疲れやすく息切れがする、出血しやすい、痺れや麻痺がある、汗をかいて疲れる、皮膚炎や潰瘍が治りにくい、むくみが取れないなど幅広い症状に適応があります。

 一方、朝鮮人参と呼ばれている人参ですが、使い方によっては、もともと血圧の高めの人や動悸をおこしやすい人や出血傾向の人やのぼせやすい人や寝汗をかきやすい人やイライラしやすい人の程度を強めてしまう場合があります。作用が強いので適応範囲は黄耆より狭くなります。

 日本で知られていない重要な処方の一つに「玉屏風散」があります。黄耆を主成分にしている処方です。中国医学では「正気(防衛力)が体の中に充実していれば、外から邪気(病気)は侵入できない」という考え方があります。正気の安定が重視され、もしこれが弱まると、季節の変わり目や天気の急激な変化に対応できずに風邪をひく羽目になります。

 しょっちゅう風邪をひきやすくなかなか治りにくい場合、舌が浮腫んだ様に大きいことがあります。そういう舌は、漢方では「気虚」といって抵抗力・免疫力が弱いことのバロメーターになります。アレルギー性鼻炎・アレルギー性のゼンソク・アトピー・慢性のじんましん・潰瘍性大腸炎・リウマチなど免疫の過敏状態も低下状態にも両方使えるのが漢方の特徴です。潰瘍性大腸炎で一年の半分を病院で暮らしていた人が、休むことなく会社に勤められるようになった事例もあります。最近「衛益顆粒」の名前で輸入される様になりました。お勧めしたい逸品です。



葛根


 「どの位したら効いて来ますか?」患者さんからよくある質問です。患者さんから、気兼ねなく質問ができる医療を目指しているので、うれしい質問のひとつです。

 結論を先に言えば、一ヶ月して変化がなければ、見立てをもう一度考え直すと、中国の先生は言っていました。

 漢方薬は、現代医学の抗生剤やステロイドホルモン剤などのような薬剤とは根本的に違いますから、そういう薬剤の適応の疾患(細菌性の疾患や急性期のリウマチの熱や痛みなど)では、新幹線と自転車くらい目的地に着く時間は違う印象を持っています。負け惜しみを言わせてもらえば、新幹線の架線や車体は用がなくなれば分解するのに膨大なエネルギーを要します。自転車はペダルを踏んでさえいれば進んでくれますし、最悪一人の力で前に進みます。

 中国での研究では、清熱解毒薬に分類される金銀花板藍根抗菌抗ウイルス作用があることが発表されています。清熱●火薬に分類される石膏は含水硫酸カルシウムですが、熱を伴ったアトピー性皮膚炎やリウマチの熱に日本の臨床の場でも応用され、困った副作用を見ずに、満足の行く効果を上げています。「急がば、まわれ」の感があります。

 東京での学生時代、日本の漢方をかじっていた時に先輩から教えていただきました。「井上!漢方は分単位で効くものもあるんだぞ!」と。確かに、さっきひいたばかりの風邪などは、ねぎ味噌や玉子酒と並んで葛湯(くずゆ)などで冷えた身体を温めると、氷が溶けるようにこわばった身体が緩んでいくのを感じます。まさしく「分単位」です。

 あまりにも有名な「葛根湯」ですが、寒気があって汗の出ない初期に使います。汗が出るようになったら別の処方にすべきです。葛根は、「清気」を引き上げる作用を持つため、糖尿病の口渇・急慢性の下痢にも応用されます。

● ・・潟のつくりに、ウ冠。

 マメ科クズの根の皮をむいたもの。落語「葛根湯医者」では、いろいろな症状に応用される漢方の妙味が紹介される。



升麻(しょうま)


 先日、朝鮮の子供のホームステイを受け入れました。一夜漬けしておぼえたハングルは、あいさつの「アンニョンハセヨ」です。これは「安寧ですか?」という意味らしく、中国語の「ニイハオ」の「調子がイイ?」に近い印象でした。日本語では「元気?」ですが、漢方ではもともと親からもらい受けた命そのもの「元気」と言います。

 「気」の付く言葉には他に「宗気(そうき)」があります。これは、肺に吸入された大気中の「清気(せいき)」と消化器から吸収される「水穀の気」が体内で結合して作られると考えられています。更に、現代医学で言う自律神経系や免疫系に相当する「衛気(えき)」などがあり、「気」ひとつをとっても、昔からよく考えられてきたものだと感心します。

 「気功」もその「気」の流れを整えるものと考えられます。素問という古典にあるように、人間が欲望のままに自然から離れて夜更かし朝寝坊をし、食べ尽くし、乗り物に乗ったり座ったりし続け、自らの親である自然を奪い合いことで、早く年を取り病むとされています。気功は、それでも人間が元気でいられる魔法の術ではないような気がします。むしろ、我を忘れて自然に身をゆだねて、生き方を見直すきっかけなのだと思いたいです。

 患者さんの中で「頭の空虚感」「頭がぼやける」「物忘れしやすい」などを訴えとともにめまいや立ちくらみで困っている人もいます。漢方で言う「気虚(ききょ)」の体質の患者さんです。特に、胃腸虚弱で少し食べただけで満腹になってしまい下痢をしやすい場合、脳にあるべき気が下がってしまい、言われた事が理解できない、覚えられない、考えがまとまらないということになります。女性では生理の時にも多くなります。

 このようなときに、薬草の人参黄蓍(おうぎ)も気を補充してくれますが、一方で、升麻(しょうま)葛根(かっこん)といった気を上昇させてくれる作用を持った薬草を併せると効果が高まります。中国では「益気聡明湯」がありますが、日本で入手できる類似処方は補中益気湯です。

キンポウゲ科サラシナショウマの根茎。舌の引き締まりの弱い場合に使い、イライラ・のぼせがある場合は使うべきでない。



百花蛇舌草


 先日、篠原一郎さんという方が自費出版された「30代40代で、手術不能のがんと言われたら・・」という冊子を拝読させていただきました。そこには、いま流行の「飲んだら治った」式で無い、この病気になった人でなければ書けない経験とその中でたどった道のりが刻まれていました。

 現代医学では、三大療法と言われている「手術・放射線・化学療法」を中心にした治療が進められています。また十年前から「告知」と言って患者さん自身に病名を知ってもらうようになっています。

 ところが、近年、近藤誠医師の疑問符に始まって、阿保徹医師の提案など、代替医療に注目が集まっています。一方で、患者さんは一般外来で病名を告げられた後精神的フォローがなされることなく「放り出された」という印象を受けているという訴えが後を絶ちません。

 日本では「十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)」「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」が、免疫力を高め抗がん作用を発揮する漢方薬として実際の臨床現場でもよく使われています。中国における研究によると「参茸補血丸(さんじょうほけつがん)」「参茸丸(さんじょうがん)」にも、それを上回るすばらしい作用があることがわかっています。そればかりか、抗がん剤や放射線の治療にともなう血小板や白血球の減少に対しての予防・回復促進のデータも次々と上がってきています。これらの治療法は補法と言って患者さん自らのがんを抑える力を補う漢方の知恵と言って良いでしょう。

 一方、百花蛇舌草半枝蓮は、がんの進行時に発する「毒」による発熱を抑えるとして、中国で紹介されましたが日本でも●●医師を中心に臨床で有効性が認められて用いられるようになってきました。この治療法は潟法(しゃほう)と言って、がんそのものやがんによる「気・血・水」の巡りの悪い状態を薬の力で改善する方法です。他に、●苡仁や夏枯草などが良く使われます。

 漢方では、このような補法と潟法を患者さんのその時の状況に応じて使い分けて、身体のバランスを整え回復力を高めるのが、最も大切な原則です。やみくもに良いと言われる高価なサプリメントを飲んだとしても吸収出来ないばかりか負担になってしまう場合も多いと思われます。

 篠崎さんに来月お会いするチャンスに恵まれています。平均余命1年弱と言われて、7年後の現在も通常の生活をされている、その生きる姿勢に学ばせていただきたいと願っています。

 アカネ科フタバムグラの全草。以前から腹部や皮膚の熱を伴った痛みに使われて来た。キク科タンポポやシソ科コガネバナと併用される。


続きを読む>>

過去の掲載文を読む

1〜20>21〜40>41〜60>61〜80>81〜100>101〜120>121〜140