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百合


 長野の佐久総合病院に、南木桂士先生という小説を書くお医者さんがいます。私は先生の温かみのある文章の大ファンで、今はやりの癒しを感じて読みふける事もしばしばです。病気に対して高度な知識がある医師も外科医としては必要ですが、病気に対して深い共感がある心療内科・神経科領域の医師・カウンセラーがいるのも患者さんにとってはとても大切な事のように思われます。

 百合は漢方では「びゃくごう」と読みます。ユリ科の植物の根を言いますが、同じユリ科でも「ナルコユリ」「黄精(おうせい)」「アマドコロ」「玉竹(ギョクチク)」「アミガサユリ」「貝母(ばいも)」と言い、作用は別なのでチャンスがあれば別の稿でご紹介したいと思います。百合は、正月の料理や茶碗蒸に入っている鱗茎を指します。

 有名な「百合固金湯(びゃくごうこきんとう)」は、手足がほてり寝汗をかく、舌の色が赤く苔が剥がれている体質の患者さんの、慢性に経過した痰のほとんどからまない咳に使われます。漢方の五行説の「金」「肺」にあたり、本来「水」を生んで「腎」を冷ますべき所、体質のゆがみが生じたのでそれを治してくれる処方です。秋に空気が急に乾燥して喉の渇きを伴った咳になったときには日本にある「養陰清肺湯」を使います。梨や蓮根もお勧めできます。

 中国の古典に書かれている「百合病」は、虚弱体質の焦燥感・不安感・ちょっとしたことで驚きやすい・動悸・不眠・多夢・恍惚放心といった症候群を指すと考えられています。この場合も百合を用いた処方の適応になります。漢方で言う「心」は、現代医学で言う心臓というより「心配」「心労」という時の心に近いと思われます。思春期の心は、土から芽を出したばかりの弱く細い植物の様です。照りつける強い日の光や風は、かえって枯らしてしまう原因になりかねません。相手の立場に立った共感のある家庭が癒しの原点のような気がしてなりません。

奈良県大神神社の百合祭りでは、ササユリで「百合病」平癒を祈願してくれると聞きます。
肺ばかりか心の乾きも癒してくれます。



杜仲


 古人いわく「己をつねって、人の痛さを知れ」と教えられましたが、実際に足腰の痛みを経験してみて本当のところがやっとわかる年頃になりました。立ち座りの時の膝の痛み、ムチウチの耐えがたい肩や首のだるさ、いつまでも頼りない腰の弱さ。中国では「不通則痛」と言って、気血の流れが滞ると、痛みとして信号が来ると考えられています。

 杜仲は、トチュウの樹皮を塩水をかけながら乾煎りしたものです。今から20年前初めて西安の近郊にある漢方の大学にお世話になったときに、「炮制(ほうせい)」の実技実習を受けました。日本では余り顧みられないその作業は、慣れない私には大変なものでした。柴胡や香附子を酢をかけながら乾煎りしました。焼いた砂の中に穿山甲(せんざんこう)の鱗甲を入れて手早くかき混ぜると餅が膨らむ様に白くなりました。杜仲もゴム状の白い糸が切れやすくなるまで、何度もやり直しをさせられました。「的を正確にねらっても、弓矢がナマクラでは敵は倒せない」。先生は職人の頑固な目を和らげませんでした。

 リウマチや関節痛には、先に鍼灸を試みるようにお勧めしています。効果が一ヶ月しないうちに出るからです。もちろん現代医学的検査を併せますが、結果が思わしくない時には漢方薬の出番になります。「独活寄生湯(どっかつきせいとう)」は、身体の酷使や老化などから来る抵抗力の低下を改善してくれるので、「年のせいだからしょうがない」と諦めていた痛みがとれる例をよくみます。日本には「独歩丸」という名前で輸入されています。冷えや痛みが強い場合に、「大防風湯」を勧めます。これは保険適応になっています。逆に患部が熱を持っている場合には「健歩丸」を勧めます。

 何年も冷えを取るだけの漢方薬を飲んで効果がみられなかったリウマチの患者さんが、独歩丸を飲んで「このくすりに救われた」と喜んでくれた笑顔を今でも忘れません。

 勃起不全・頻尿(オシッコちょろちょろ・オシッコたらたら)にも使われる。さらに、習慣性流産の治療にはなくてはならない。



阿膠


 「健康の秘訣はなんですか?」私は思わずその老人に尋ねました。80歳を越えても身の回りのことをこなし、人生に目標を持って若い人に働きかけるそのエネルギーの元を知りたくなりました。日本人と中国人が一人の人間として相互理解を深めようと活動を続けるOさんの姿に驚きました。彼は遠くを見ながら答えました。「くよくよしないことと鶏手羽先のスープ」と。

 阿膠は、「阿」という山西省にある鉱泉の水で、ロバの皮を煮詰めたニカワです。現物は習字で使う硯で擦る墨のような形をしています。20年前の中国では男性が女性にプロポーズする時にプレゼントしたものです。当時、にせ物が多い中、最高級の阿膠を手に入れる力があるということは、出世を約束されているということでした。しかも、かの楊貴妃は、これを温かい酒に溶かして飲んで、内側から化粧をした様に肌のきめが細かく唇は燃える様に紅く、美しかったといいます。「君のことを大切にするよ。」という思いを伝えるには充分な品物です。

 漢方で言う「血(けつ)」を補い止血する働きがあるので、月経不順・冷え症・不妊症の要薬とされ、中国では紫斑病・血友病など血液に関連する難病に応用されています。

帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)は、中国では、月経や出産後出血がすっきり止まらずダラダラ出る症状に対する、重要な処方です。ところが、日本で保険でこの処方で投薬する場合「痔出血」という病名しか認められていません。「婦宝当帰膏」は、残留農薬など国際基準をクリアーした材料で作られた漢方薬です。先日も乳汁不足・産後の疲れに素晴らしい効果を発揮してくれました。

 鶏手羽先のスープも、肌・筋骨から脳まで補う働きがあり、庶民の阿膠としてお勧めできます。

動物生薬は「血肉有情の品」と言い、草根木皮に比べて効果が高いと言われている。虚弱者の焦燥・不安・不眠にも効果がある。



磁石


 ここのところ、結婚式に呼ばれることがめったになくなり、礼服を着るのは黒ネクタイばかりになりました。よく「薬石効無く・・」と言います。一説にはこの場合のは、鍼(ハリ)の原型とも考えられます。または、草かんむりの薬草ではなく、鉱物性の生薬(しょうやく)とも考えられます。

 磁石(じせき)は、天然の磁鉄鉱で、四酸化三鉄を主成分にしている鉱物です。身体の中のしかるべき所に収まっているはずの「気」が浮いてしまっている場合、重い石を煮たらその気を鎮めてくれると考えるのは、古代人のイマジネーションの豊かな所でしょうか。

この生薬は、不安・動悸・驚きやすい・不眠といった症状に用いられます。慢性のゼンソクで吸う息がしにくい場合にももちいます。さらに、過労が続き陰陽のバランスが崩れた結果の耳鳴り・難聴のほかめまい・目がしぶいなどの症状にも用いられます。

 耳聾左慈丸(じろうさじがん)という処方があります。病気による消耗や老化によって起きる耳鳴りは、せみの鳴くような音が途切れなく続き、夜寝るときなどは非常に苦になるものです。眠りが浅い・のぼせ・いらいらなどにも中国では用いられています。日本には「ジメイ丸」という名前で輸入されています。

 3年ほど前に、県外から60才代の姉妹がおいでになりました。群馬県に住む知人が、「ジメイ丸」を服用して治ったのを聞いたとのことでした。調剤録を調べると、その治った患者さんは40才代で、耳鳴りが始まって3ヶ月でした。わらをもつかむ気持ちで漢方に掛けてみたら3週間ほどで、症状が納まってしまったというのです。ところが、その姉妹は既に30年も耳鳴りと難聴で困っていると言うのです。可能性はかなり低いので意味がないかもしれないというこちらの説明も聞かずに、薬を持って行かれました。2週間後に電話がありました。「効果がないから返品したい」という電話かと思ったら、「効果がみられるから追加を送ってくれ」という電話でした。その後4ヶ月ほどで満足いくところまで治ったと言う電話をいただいて治療を終了しました。うそのようなホントの話です。



麦門冬


 今年の夏は6月に始まって、非常に暑くて雨が足りなく庭木まで枯れそうな状態でした。朝夕狭い庭に水遣りをしていると、生き返る緑が私の乾ききった焦燥感を潤してくれる様で、思わず手を合わせたくなります。

 ユリ科のジャノヒゲの塊根麦門冬(ばくもんどう)は、そのものの名前で、麦門冬湯という処方があるくらい、漢方の分野では親しまれている薬草です。主な効能は咳止めです。ほとんど痰のからまない漢方で言う「肺陰不足」という体質になることがあります。舌の赤味がやや赤く、表面の苔が剥がれてしまって、ひどい時はひび割れてしまっています。このような時には、なくてはならない薬草で、かすれていたのどや声が元通りになって、古人の知恵に驚かされます。そういった場合、私の経験では気管支拡張剤を続けて使っても効果が思わしくないことが多いので、患者さんはとても驚きます。

 こちらも漢方の有効性が理解されてうれしい場面です。清燥救肺湯(せいそうきゅうはいとう)は、かけがえのない処方ですが、残念ながら日本ではエキス剤は手に入りません。漢方に理解のあるドクターから煎じ薬を処方していただくしかありません。(話しを混乱させるかもしれませんが、麦門冬湯も清燥救肺湯も、舌に苔が厚く付いていて痰のからむ咳の場合には残念ながらほとんど効果が望めません。同じ咳でも体質が違うからです。)

 「生脈散(しょいみゃくさん)」という処方があります。脈を生き返らせるとあります。夏バテで口が渇く・元気が出ない・無力感などの症状があると、もう永いことないかななどと悲観的になってしまいます。この処方を飲むと、まるで身体の中の砂漠に水がしみ込み森になって力が湧いていくかのような錯覚にとらわれます。朝鮮人参の陽麦門冬の陰五味子の収の絶妙なバランスの処方です。五臓六腑の心の気陰を補うことになるので、気力が落ちて憂うつな時にも、楽観的になれたケースをよくみます。

 田んぼや畑の土留めや庭の日陰の下草に植えられる。5月に根に付く芋のような「紡錘根」を掘り出して乾燥させて使う。



大黄


 「ゲーム脳」という言葉が、世に問われています。子供から大人まで、一種独特の魅力で引き込むエネルギーを持っています。ミヒャエルエンデさんの「モモ」に出てくる時間泥棒にそっくりな気がしてなりません。

 「用薬如用兵」という言葉は以前紹介しました。今回は兵法に通じる治療法を紹介しましょう。「釜底抽薪(ふていゆうしん)」という、兵法です。書いて字のごとくで、「釜の煮ているかまどにくべられている薪を抜く」というわざです。

 大黄は、便秘薬として有名な薬草です。センナと並んで有名なタデ科のダイオウの根です。ところが、単に便秘だけでなく、漢方で言う水がよどんで熱を発生している場合やストレスにより熱を発生している場合から血の巡りの悪い場合にも応用されています。食べ過ぎやのぼせ・イライラ・目の充血・口内炎・鼻血から月経不順などにも使われます。

 ご存知の様に、漢方には人体の各部分が有機的につながりを持って、一つの総体=宇宙と考える特徴があります。ですから、一つの症状をその部分だけを治すのでなく、体全体のバランスを整えることも大切に考えます。

 「肺と大腸は表裏の関係にある」と中国の古典にあります。肺には気を下に送る作用があると考えています。気は胸にとどまらずに腸の排便の活動を助けていると言う意味です。この働きを逆に応用して、便通を改善して腸の裏側の肺の機能を整えて咳を和らげるということも理論上可能です。

 実際に、風邪で発熱して銀翹解毒丸(ぎんぎょうげどくがん)などの消炎解熱薬を使ってもうまく行かない場合、便秘していることがあります。便秘に使われる「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」を合わせることで咳も熱も収まるケースがあります。これが「釜底抽薪(ふていゆうしん)」という裏ワザです。

大黄は、下剤としてたくさんの処方の中に用いられる。高山植物のような生態をとり北海道や本州山地で栽培される。



砂仁


 日本の漢方で患者さんに最も合った漢方薬を選ぶには、腹診を重視します。20年前に研修させていただいた大友一夫先生(現在秩父で開業)は、患者さんに一言もしゃべらせずに診察台に横になるように指示します。肋骨の下からそけい部まであちこち押して触診をします。終わると身支度をさせて、「ところで今日はどうしたんですか?」と聞くのです。あとで「患者はうそをつく事があるが、腹はうそをつかない」というようなことを教えてくださった記憶があります。

 中国西安に渡り、漢方専門の大学病院で研修をさせていただくと、舌診を重視することに気が付きます。はるか離れた所の先生も「舌はうそをつかない」と教えてくれました。

 日本で、県内の患者さんの紹介で県外の患者さんが電話をかけてくる事があります。来られない場合、例えば胃がスッキリしないということであれば、現代医学の診断名・いつからか・食欲はあるか・口の渇きはあるか・口の中に粘りや熱感があるか・痛みはあるか・悪いのは午前か午後かなど、聞いて薬を送るしかありません。舌を見られれば、百聞一見、一目瞭然です。さらに、その患者さんの口臭ばかりか、極端な事を言えば患者さんが放っている「気」の様子も重要な手がかりなのです。テレビ電話が発達しても、100%埋められないものがあります。

 砂仁は、ショウガ科の植物の種です。ストレスからの痛みや冷たいものや脂の多いものの摂り過ぎによる下痢や吐き気に主に使われます。「六君子湯(りっくんしとう)」という処方がありますが、「補」の薬です。これに、木香(もっこう)と砂仁を加えた香砂六君子湯があります。これも「補」ではありますが「行気」の作用が加わります。ちょうど餡子に塩をわずかに加えると甘味が増すように、効果が増すのです。「六君子湯」で、舌の白い厚い苔が取れない場合でも、効果が見られる場合が多いようです。先日も過敏性腸症候群の患者さんが「胃が目覚めるような気がします」と言っていました。中国でも「醒脾開胃」といいます。



竹茹(ちくじょ)


 子供の頃、夏の夜怪談ばなしなどを聞いて、眠れなくなった覚えがあります。いやに生々しい恐ろしい夢にうなされて飛び起きるということもありました。最近は枕に頭がつくと1分もしないうちに眠ってしまうので、不眠の患者さんの辛さが本当の所わかっていないようですが、その頃のことを思い出せば、辛さはわかるつもりです。

 漢方相談においでになる患者さんに夢の話を聞くと「えっ?そんなことまで関係あるの?」と言う顔をされてしまいます。中国漢方では、どのような夢を見るかでその人の五臓六腑のゆがみがわかるとしています。まるで、どこかでユングの世界とつながっている様で、ワクワクしてきます。そして、それが患者さんの苦痛を取り除くのに役立ったら、そのしくみを見極めたい誘惑から逃れられません。

 日本では獏(ばく)という空想上の動物がいて悪夢を食べるとされています。中国でも湿気の邪気を清め祓う(はらう)動物とされています。

 漢方では、心配を繰り返していると胃腸の働きが低下して、湿気の邪気がたまりやすくなります。それが、うまく短期間で解消すれば良いのですが、長引いてしまうと熱と粘り気を帯びてなかなか解消しにくくなります。この邪気は身体の各方面に影響を与えますが、特に精神症状に影響があらわれると、不眠・憂うつ感・不安感・頭重感の他に悪夢を見る場合もあります。

 竹茹(ちくじょ)はイネ科のハチクの茎の表面を加工したものです。体の中の熱を帯びた湿気を取り除く作用があります。漢方では熱を帯びた湿気を熱痰といい「半夏(はんげ)」「黄連(おうれん)」などと竹茹を組み合わせた竹茹温胆湯は、熱痰が原因の胃腸症状から精神症状まで広く適応します。



山●子(注意:●・・は作字です。文末参照)


「粗食のすすめ」を書いた幕内秀夫さんが、学校給食の完全米飯化の運動をしていることを知っている人は多くないようです。小手先のレシピにとどまらず、社会を変えていく事業に挑戦している姿には頭が下がります。理屈だけでなく、日本人の食習慣を風土に添ったものに変えるだけで莫大な金額の医療費が節減できると確信します。

 山●子は、動物の脂や乳製品・肉の食べ過ぎの時の消化を手伝う民間食として中国で使われています。また、せんじ薬の中にも加えて他の薬の吸収を高めたりします。30年近く前の中国の田舎の小学校の校門の前には、自転車の荷台に串刺しにされた山●子のお菓子を売るおじさんがいました。昔は山●餅といって、小さな薄いせんべいのようなお菓子も売っていました。

 山●子は、さらに★血(子宮内膜症や子宮筋腫などに伴う)の痛みに、血行を良くする処方に合わせると効果が高いと言われています。

 最近、高脂血症の診断を受けている人が多いような気がします。日本ではもともと獣肉をさほど食べる習慣がなかった上に、聖徳太子以降仏教の指導でほとんど動物の肉や脂から乳製品まで、口にしない時代が明治維新まで続いたと言われています。日本の歴史・日本の風土から今の日本人の体質が出来ているのですから、歴史・風土の違うヨーロッパやアメリカの食べ物が日本人にそのまま合うとは思えません。高温多湿の日本には、チーズでなく味噌や納豆のような植物の醗酵食が生まれたのです。

 そこで、「粗食」こそが昔の日本人が食べていて、この風土に合って、身体に負担が少ないと、幕内さんが勧めているのです。

 しかし、食事は楽しみでもありますし、回り中が肉食をしている中、「粗食」を続けるのは反ってストレスがたまります。時に友人と洋食をとったあとなどに、この山●子を利用するのが良いでしょう。最近は「晶三仙(しょうさんせん)」という名前で輸入されています。

作字(日本語の標準パッチに入っていない漢字です。)
●・・木 + 査
★・・病だれ + 於
作字をPC上で行ってもブラウザによって表示されませんのでこのように対処しています。




五味子


最近このコラムをご覧になっている方からよく声を掛けられます。ありがたいことです。「中医研」のホームページの掲示板にも書き込みがされています。「厚朴は香りだけでなく、味にも効果があったのですね。」とありました。漢方のせんじ薬は、煎じながらの匂いと飲む時の苦味も効果を発揮する作用の一つと言われています。「美味しく感じるのが体質にあっている証拠」とも「良薬口に苦し」とも言います。自然の治療は、何も食べないで横になっている方法の次が、食べ物でないものを食べて吐いたり下したりして回復を待つものだったのでしょう。動物としての自分の感覚を深めるチャンスではあります。

 五味子は、木の実で、五つの味がすると言いますが、主には酸っぱいです。酸味は収斂の働きがありますから、薄い痰をともなった咳・異常な発汗・頻尿や尿もれ・下痢など、締まるべきところが締まらない場合に使われます。特に夏ばてで、「気」が漏れ出てしまって、口の渇き・息切れ・動悸・疲労倦怠感の場合にも使われますし、糖尿病などで同じ症状なら問題なく使えます。

 このように、一つの薬草は、五臓六腑の肺にも心にも腎にも使われますから、それを使った処方も体質さえ同じ方向であれば、当然いろいろな現代医学の病名に使えるものです。私が師と仰ぐ張学文(ちょうがくぶん)先生は、薬草にも処方にも詳しい名医です。まるで将棋や囲碁をしている様に、患者さんの状態はこのような戦況であるからこの処方を基にしてこの薬草を加えこの薬草を減らそうと、説明してくれます。「ジンシャン(井上くん)!用薬如用兵!」と言いかつ「一挙両得!」といって、薬草や処方をどう組み合わせれば節約できるかも、教えていただきました。

 最近の研究では、五味子に慢性肝炎の患者さんの血液デーダ(トランスアミラーゼ値)を改善する効果が認められたという発表もありました。昔の人の知恵には驚かされます。

チョウセンゴミシの実。つる性の木で、秋に真っ赤な房がつく。薬酒として、不安や焦燥感からの精神疲労や早漏に用いられる。



半夏


夏の半ばに、黄緑色のヒシャクのような花をつける。根に球がついていて、これを農作業のかたわら採取して薬問屋に売っていたらしい。

 この島国の日本には、中国から漢字と共に入ってきた概念が日常の中に伝えられてきました。五臓六腑の中で「心」では「心配する」「心血をそそぐ」などといいます。「胆」では、「胆を冷やす」「胆をつぶす」なとといいます。漢方の考え方が日常の生活の中に気が付かないうちにしみ込んでいるのでしょう。

 半夏は、身体の中の水のよどみを乾かして、胸苦しい感じやめまいを治したり、吐き気をとったりする重要な薬草です。胃腸障害からのよどみだけでなく、目に見えない「風痰(ふうたん)」といって、脳卒中の後遺症の半身麻痺についても、よどみと考えて症状の緩和に導いている昔の人たちの知恵には驚かされます。一般に、経験の少ない治療者は元気がない患者さんを前にするとあわてて「気」を補うような「人参」などを勧めがちです。しかし、日本でも中国でも先を読める先生のやり方を見ていると、自己治癒力を発揮しやすいように、じゃまなものを取り除くだけです。結果は素晴らしいものです。汚れた器に新しい酒を注いではいけないのです。

 先日の報道によると、日本では一日に94人の人が自ら命を絶っているといいます。その何倍もの人が試みていると思うと心が痛みます。米をとぐのもおっくうになって、それまで興味のあったことにも気持ちが動かなくなってしまった。スーパーで並んでいるどの納豆を買うかも決められない。将来が不安でいてもたってもいられない。気が付いたらいつもオドオド・ビクビクしている。などという患者さんの中に、舌に厚い白い苔が付いている人がいます。

 漢方では「胆寒(たんかん)」と表現して、そういった精神症状を改善する処方として「温胆湯(うんたんとう)」があります。胆を温め(強め)ることにより、胆(きも)が座るようになるわけです。憂うつ感・不安感・寝つきが悪い・途中で目が醒めて眠れない・いやな夢ばかり見る・イライラしやすいなどで、困っている人に勧めたい処方です。

 また、物事を悪い方に考えるクセがある人が多いと思いますので、カウンセリングを受けていくことも、大切だと思います。



厚朴


香りや味も効き目のうち。伽羅(きゃら)・厚朴(こうぼく)・白檀(びゃくだん)といえば、お線香。菖蒲(しょうぶ)・厚朴(こうぼく)沈香(じんこう)は漢方。

アレルギーに詳しい先生の医院の入口に「強い香水をつけて来ないで下さい」という旨の掲示がされています。化学物質過敏症の患者さんの身体を守るためなのだそうです。日本の平安時代には籠の中で香を焚いて衣服につけて楽しんでいたようです。見ることより聴くことの方が、聴くことより嗅ぐことの方がより深い所で記憶に残っていると言う説もあるそうです。香りがなければ御飯も砂をかむ様だといいます。

 厚朴は、「行気薬(こうきやく)」に分類され、辛味で気の流れを邪魔しているものを散らして、苦味で気の流れを整えます。中国ではモクレン科のカラホウを使い、日本ではホウノキの樹皮を使うので、「和厚朴」と呼び換えています。

 レントゲンなどで、実際に胃や腸に詰まっている動きの悪いものがあればそれをスムーズに動かします。胃がいつももたれる・張って苦しい・痛い・便秘して苦しい、などと言う時に「平胃散(へいいさん)」「大承気湯(だいじょうきとう)」が使われます。

 目に見えないけれど、喉に何かがつまって緊張する場面で咳払いを繰り返すケースがありますが、「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」が効果をあげています。

 子どものPTAの集まりが近づいてくると、胸に息が入ってこなくなり息苦しく、肩が張って頭が張って何も考えられなくなってしまった患者さんが、楽になった例。高校に入ったが、授業が難しく着いて行けるか心配になったら、咳払いの癖がついてしまって、授業に出られなくなった子が、校外の活動を通して次第にこだわりがなくなって学校に戻れた例、などがあります。

 先日、ブナ林を散策していました。同行の友人が目をつぶってみてと言うのでそうすると、驚くほどの音と香りが心の中に流れ込んできました。テレビやパソコンも便利ですが、目や耳以外の感覚を麻痺させるのはもったいないと思いました。




九寨溝


6月末に中国・四川省の省都、成都から北へ500キロ北の九寨溝・黄龍「観気旅行」に行ってきました。これまで薬草の話しをお伝えしてきましたが、今回だけ「気」「水」をお伝えしたいと思います。1993年に「関西気功協会」で、ツアーを組んだ場所で、「観光」が風景を目で観るのなら、「気」を観る旅行にしようと名付けました。

九寨溝は80キロに渡って続く透明度の高い湖と森の織り成す、白糸の滝を何十も合わせたような壮大な滝がいくつもある所です。そのやさしさとスケールの大きさには圧倒されてしまいました。森全体の根本を覆って、見渡す限りの幅の透明な水がとうとうと流れていくのです。黄龍はそこから標高4400mの峠を越えてたどり着く所で、石灰岩でできた大小様々な棚田状の池にエメラルドブルーの水が満ちている、約4キロの所です。

気功をしている人なら、目で見る景色だけでなく、そこを覆う広大な「気」のエネルギーに唖然としてしまうでしょう。「盆栽」のような繊細な「気」を探求するのも奥深い話ですが、想像を絶する量と質の気の場がそこにありました。

水が今話題になっていますが、ペットボトルに詰められている水や私たちの身体の中にたくわえられている水の元がそこにあるように感じました。全ての苦しみを洗い流して水は海に流れ込み、天に昇ります。その一部が岷山山脈の主峰、標高5588mの雪宝頂に降り、雪解け水となって流れ下って行きます。滝の水飛沫を浴び、滝の音に包まれながら、身体の中の水が清らかな兄弟の水に出会えて歓びに打ち震えるのを感じました。

戻ってきて思うことは、これだけのところを単に観光名所として産業化するだけに留めないで欲しいという事です。「気」「水」癒されたい人が、そこでゆっくりと滞在できる場になって欲しいと思いました。さらに、人が身を寄せて生きていく場所は、本来木の緑に囲まれたおいしい空気や水の豊かな大地のはずだと思います。循環する自然環境を守り育てるには日常どんな注意が必要なのかを学ぶ場になって欲しいと思いました。



かっ香


身体の中のよどんだ湿気と熱をとりのぞき爽やかにしてくれる、高温多湿のニッポンの夏の救世主。芳香化湿薬

舌の表面についたヌルヌルした汚れをこすり取る道具が輸入されていると言います。口臭の原因になるから歯ブラシでこすり取る人もいる様です。漢方相談を専門にしている薬剤師にとっては、とても困ったことです。身体からの信号としての舌の苔の状態が消されてしまうと、患者さんの体質を判定する有力な情報が消されてしまい、場合によっては判断を誤る原因になる可能性があるからです。

例えば、身体がだるく食欲がないという話を聞いて、舌の苔が薄いのを見れば、「気虚(ききょ)」=エネルギー不足の可能性ありとして、息切れ・動悸・汗かきなどの存在を聞くだけで自信を持って「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」を勧めることが出来ます。もし、舌の苔が白くて厚ければ、食欲の有無・便の軟らかさを聞いて「六君子湯(りっくんしとう)」を勧められます。万一、厚くてネバネバしていれば微熱・頭重・お腹の張りを聞いて「かっ香正気散(かっこうしょうきさん)」を勧めることができます。漢方では身体の中に水のよどみがあると考えます。

 かっ香はシソ科のパチョリやカワミドリのことです。

@発表解暑
A化湿止吐の効果があります。

夏に冷たい物の飲食で消化器系の機能失調がおこり、嘔吐・下痢・発熱などのある場合の欠かせない薬草です。代表処方は「かっ香正気散」です。夏の胃腸障害を起こすウイルス感染にも応用できます。ゲップやガスが多い人にも勧められます。日本には「勝湿顆粒(しょうしつかりゅう)」という名前で輸入されています。

夏は暑いのは当たり前ですが、その場しのぎで涼しくしようとすると、クーラーで関節を冷やして冬に痛んだり、呼吸器を冷やして春に鼻水や咳に悩まされたりします。口に美味しい冷たい飲食は「脾(ひ)」の吸収機能を低下させ疲れやすくするばかりか、排泄機能も低下させやせにくい体質にしてしまいます。気を付けたいものです。



紫蘇


香りの強いアカ紫蘇に効果がある。庭に植えると便利な薬草だが、アオ紫蘇や香りの無いものとの交雑に注意が必要だ。

その昔、名医華陀(かだ)が旅の途中、14才くらいであろうか子どもが、カニを食い散らかしている所に通りかかりました。華陀は「私は今夜は村外れの宿屋に泊まる。そのように欲に任せて食べては夜半に必ず腹痛を訴えるだろうから、私の所に来るが良い。」と言いました。子どもは「老いぼれ!自分で稼いで自分で食べてどこが悪い?」と悪態をつきました。果たして、子どもは息も絶えるかと思えるほど苦しみ始めました。子どもの仲間が、華陀の事を思い出して宿に訪ねました。華陀は言います。「そこの紫色の草を与えなさい。命が蘇えるであろう。」

私には、コンビニの前で座ってなにやら食べている子どもたちを導くことは出来そうもありません。食べ放題・飲み放題で身体をゆがめている習慣は、どうしたら直るのでしょう?

シソ科の植物の葉である紫蘇は、

@「散寒解表(さんかんげひょう)」軽い寒さに当たって食欲が落ちた時に使います。代表処方は香蘇散(こうそさん)です。

A「理気寛中(りきかんちゅう)」暑気やストレスで上腹部や喉につまりを感じる場合に使います。代表処方は●香正気散(かっこうしょうきさん)・半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)です。

B「行気安胎(ぎょうきあんたい)」不安・緊張から来るつわりに。

C「解魚蟹毒(げぎょかいどく)」刺身のツマは飾りではないのです。

以上のような働きがあります。

特に、「梅核気(ばいかくき)」といって、遥か昔から「人からどう思われるだろう?」という思いの強い人は、喉に梅の実が痞えたような不快感に悩まされやすいものです。21世紀の便利な世の中になっても、昔とそう変わるものではないようです。現代医学の専門の医師に診断治療を受けて(まれに咽頭がんなどがあることも考えられるので)それでも納得がいかなければ、「半夏厚朴湯」は考慮に入れて良い処方だと思います。

ゆかりのふりかけや梅干も、食卓に常備したい和食の逸品でしょう。

●・・・草冠に雨冠にフルトリ



延胡索


漢方薬は何年も飲んではじめて効果が出てくると、思い込んでいませんか?効果の早い痛みを取る薬草をご紹介しましょう。

知り合いの気功を長年している人が先日はなしてくれました。「会った人がどんな痛みを身体に感じているか、自分の身体に感じるようになった。自分はまだ修行中の身だが、菩薩心が身につきはじめていることだと喜んでいる。全ての人々が病の苦しみから解き放たれない限り、私もこの苦しみの海から離れないという決心はまだまだ立てられない。しかし、そうありたいと願う気持ちは日々強くなる。」

その友人の話を聞いて、なるほどと思いました。現代医学の痛みを止める方法は、作用が確実で速いです。薬が痛みを感じなくさせるからです。一方、漢方の痛みを止める方法は、作用は穏やかでそれほど速くないです。薬が身体の調和の取れていない所のバランスを回復させます。その結果、自己治癒力が発揮されて痛みの原因を自力で取り除くことが出来るからです。ちょうど、地震などの災害の地方に救援物資を送り届ける方法なのか、現地に入って上下水道などのライフラインを現地の人と立て直す方法なのかの違いのような気がします。

延胡索はそんな中でも、即効性のある痛み止めとして「附子(ぶし)」「田七(でんしち)」と並んで重視されています。ケシ科のヤブケマン属の植物の根です。日本の問屋さんから送られるこの薬草は、中国ではそのまま使われることはありません。「炮制(ほうせい)」といって、ただ乾かしただけでなく加工する必要があります。この場合、酢で炒ります。そうすると、漢方で言う「肝」に薬効が導かれて、痛みを取る効果が発揮できるのです。

中国では「活血行気・止痛」と言い、血や気の巡りを良くして、痛みをとるとしています。主にストレスから来る胃や十二指腸などの痛みのほか、女性の月経時の痛み(子宮筋腫・子宮内膜症)などに応用されています。漢方薬にも効果の早い痛み止めがあることを知っていただければと思います。



枸杞子(くこし)


甘くて美味しい薬草。
慢性化してしまった疲れを取り除いて、肌や内臓を若々しくしてくれると言われています。

前橋の大渡橋の上から見る榛名山・赤城山・谷川など、遠くの山は文字通り「ありがたい」。小さなことでクヨクヨしている自分を、広々とした気持ちに変えてくれます。ところが、ここのところパソコンの字を見つめたり、長時間印刷された文字を見るのが、若い時の様に何でもないことではなくなりました。目はデリケートな感覚器官です。

 ナス科の植物のクコは薬草の中では有名なほうで、観光地のみやげ物屋さんや近所のスーパーでも手に入ります。(赤い実が枸杞子(くこし)ですが、根は地骨皮(じこっぴ)といってなかなかの薬草です。別の項で紹介しますが・・)甘いので虫がつきやすいですが、上手に採取してみずみずしいものをいただいた記憶があります。

 「滋補肝腎・明目」といって、五臓六腑の肝や腎を補うので「一貫煎(いっかんせん)」という処方に配合され、慢性肝炎の患者さんには特にお勧めしたいところです。また、目の疲れをとる働きや慢性の疲れをとるのに「杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)」という処方も、老化予防という養生の観点からもお勧めしたい逸品です。

 パソコンに向かって根を詰めて作業をして、目ばかりでなく頭ののぼせ・手足のほてり・焦りやすい気持ちが、とても楽になったケース。病院の慢性肝炎の仲間に比べて、漢方を続けていて明らかに疲れにくく・若々しく・データーも安定しているケース。糖尿病で足腰が弱くなり気力も衰えたのに、みるみる生活の質が向上したケースなどがあります。

 我が家では、ハルサメの炒めものや野菜炒めの上に、ぬるま湯でもどしたクコの実を散らして楽しんでいます。また、秘蔵の「枸杞酒」は、夫婦円満の酒としてきっと満足していただけるでしょう。中国では、クコを食べなかった結果老けて見える様になってしまった娘と、クコを食べて自分の娘よりも若々しく見える母親が登場してくる昔ばなしがあるくらい親しまれている薬草です。



丹参(たんじん)


シソ科の丹参は、サルビアの仲間の植物の根です。遣唐使の頃には知られること無く、中国で注目されるようになったのは、文化大革命の頃です。様々な問題から故毛主席は狭心症になり、国家を挙げてこの病気克服に効果のある処方の提案を求められました。そこで、心臓や脳や肝臓の血行を良くする作用のあるこの薬草でした。

主な作用は

1)子宮内膜症・子宮筋腫などに伴う月経痛・狭心痛・ストレスを伴う脇腹痛

2)皮膚炎(アトピーなど)の炎症や腫れ。関節の痛みや熱感

3)熱病時の不眠・焦燥。等が挙げられます。

中国漢方では、「気・血・水」を人体を構成している要素ととらえています。これらが、バランスを保っていると健康、崩れると病気と考えています。

ストレスをうまく発散できないと、気をめぐらせることによって身体全体の新陳代謝をコントロールする「肝の疏泄作用」が低下します。気が滞ると、血液の正常な循環が邪魔されて「お血」が発生します。その結果、頭痛・肩こりから皮膚の黒ずみなどの症状が現われます。この段階でお血を治療すれば「未病を治す」ことになりますが、放っておくと、動脈硬化から心筋梗塞・脳梗塞の原因になりかねません。中国漢方では、血液をサラサラに流す効果が実証されていますが、日本でも東洋医学の学会で、「老化を遅らせる作用」まで確認されて、大変注目されているのがこの丹参です。

腰や膝の強い痛みで、一般の漢方薬を飲んでも効果がおもわしくないので、お血の症状は強くなかったが併用したところ、著しい改善がみられたケース。肩こり・頭痛が生理前に強くなり、生理痛・経血に塊があり、手足が冷えていたのが、改善されたケース。中性脂肪・コレステロールの値が異常に高く、食事療法・運動療法をしっかり行なった結果、正常値近くまで改善したケース。脳梗塞の後遺症が日常生活のレベルで改善したケース。狭心症の息切れ・動悸が、病院の処方薬と併用して改善したケースなどがあります。



柴胡(さいこ)


セリ科のミシマサイコは、漢方で言う五臓六腑の「肝」に働く薬草で、根を使います。

主な作用は

1)邪気(病気の元)が身体の奥に入る前に熱が出たり寒気が出たりする時に邪気を追い出す「透表作用」

2)ストレスで憂うつだったりいらいらする気の流れを整える「解鬱作用」

3)気の力が足りなくて下痢などの症状があるときに気を引き上げてくれる「昇挙作用」


の三つがあります。柴胡を使った処方で、一番お勧めしたいのが「加味逍遥散(かみしょうようさん)」です。

現代社会はたくさんのさまざまなストレスに満ち溢れています。押しつぶされそうになって、苦しい気持ちになってしまう人が大勢います。イライラ・頭痛・肩こりなど、病院にかかって強い現代医学の薬に頼るのでなく、自然に調整したいと願う患者さんは確実に増えています。この処方の働きは「調和肝脾」といって、ストレスによって胃腸の調子が崩れ、食べたものの力が充分吸収できなくて、更にストレスに弱くなってしまうという悪循環を断つことを目的にしています。中国のもともとの処方は「逍遥散」です。「逍」は「憂うつを消す」意味で、「遥」は「血の生成を順調にする」意味です。そこにのぼせ・いらいらなどの漢方で言う熱症状を取る薬草を混ぜたものが加味逍遥散です。日本では、女性の月経不順などが効能書きの始めに書かれているので、男性の患者さんにお勧めするとビックリします。ところが、中国ではストレスで食欲が無ければ、男女問わず処方されます。

中学や高校の学生で、授業中におなかが張って痛くなりガスがたまって困るというケース。中間管理職で、下から突き上げられ上から押さえられ、胃痛・便秘・むかつきがあり、下痢のため、会社に行く途中で何度もコンビニのトイレを借りるというケース。ご主人が退職して一日中家にいるのに、お年寄りの世話の手伝いはしてくれなくて疲れ切ってしまい食欲が無くなってしまった女性のケース。この処方で症状が楽になるケースは多いです。痛み・張りなどが強い場合は、「疏肝理気」という治療法があり、代表的な処方に「開気丸(かいきがん)」があります。



著者ご挨拶



前橋の敷島公園でそれぞれの花を咲き競っていたバラも終わりに近づいています。バラの季節に前後して、牡丹と芍薬も大ぶりの艶やかな花を咲かせます。ご存知のように、漢方では、牡丹も芍薬も重要な薬草です。日本では、二千年以上前に中国で書かれた書物に忠実にその使い方を守っています。

一方、中国ではその時代その時代の医学者が、豊富な臨床経験をまとめながら認識を深め子孫に残してきました。もう五十年も以前から漢方専門の大学があり、そこでは一つ一つの薬草や処方の効能効果の定義がきちんとされています。たとえば、牡丹の根の皮を「牡丹皮」と言い、「清熱涼血」「活血散お」「清肝火」という効能があると言っています。日本語に直すと、体質の急変で夜になると熱が出て鼻血が出る場合や、血液の滞りによる月経痛がある場合や、ストレスによるのぼせ・頭痛などの場合に使うという意味です。残念ながら、日本にはこのように整理された概念がまだまだ定着しているとは言えないでしょう。

この牡丹皮を使った処方に、「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」があります。中国では、「血お」「ちょうかい」と一つの概念で言いくくられています。この二つの言葉を聞けば、舌の色・脈の強さ・患部の痛みや張れの特徴までが一瞬にして治療者の頭に浮かびます。

ところが、日本の標準的な効能効果には「子宮内膜症」から「腹膜炎」「こう丸炎」まで具体的な病名の羅列がされていますが、私の見た所では病態(概念)と言う形に整理されていないように見うけられます。その結果、患者さんは「自分は子宮内膜症だがこう丸炎ではないのでこの薬は合わないのではないか?」と不安になってしまいます。治療する側では、病状の変化が有機的に説明されずに、どうしても経験や勘に頼る世界になってしまい勝ちです。当然、治療効果も安定しないばかりか、治療経験の共有化も進まず、若い世代への教育にも良い結果が出ないでしょう。

そこで、一つの薬草の効能とその薬草が含まれる処方を紹介して、各時代の民衆が地域や子孫に残した貴重な知恵を現代に生きる皆さんにお伝えしようと思いました。患者さんの漢方に対する見方が変化したら、日本の漢方のあり方にも変化があるだろうと考えたからです。日本における漢方に対する理解が一層深まり、皆さんの健康増進・疾患寛解に役立てばこれ以上の幸せはありません。